小説

『おバカの王様』美土すみれ(『はだかの王様』)

 むかしむかし、とある国のある城に王様が住んでいました。王様は新しい服が大好きで、服を買うことばかりにお金を使っていました。天然資源に恵まれた王様の国は、お金は有り余るほどありましたし、家来はみなとても優秀なので、王様は何もすることがなくて退屈でした。王様ののぞむことといったら、大好きな服を着て、みんなにいいなあと言われることだけでした。
 城のまわりには町が広がっていました。とても大きな町で、いつも活気に満ちていました。世界中のあちこちから、知らない人が毎日、大勢やって来ます。
 ある日、二人の詐欺師が町にやって来ました。二人は人々に、自分たちは世界で一番の布が作れる布織り職人だと嘘をついていました。
「俺たちの作る布は特別だから、自分にふさわしくない仕事をしている人と、バカには見えないんだ」と詐欺師は言います。
 さあ、そんな職人がいると知った王様が、興味を持たないはずがありません。
「そんな布があるのか! すごいな!」
「もし、自分がその布で出来た服を着れば、役立たずの人間や、バカな人間が見つけられるじゃないか!」王様はそう思うとわくわくしました。
 王様はお金をたくさん用意して詐欺師に渡し、このお金ですぐにでも服を作ってくれ、と頼みました。詐欺師たちは喜んで引き受けました。
 しばらくして、王様は仕事がはかどっているのか知りたくなってきました。でも、自分で行くのは面倒なので、家来の中でもとくに頭のいい大臣に見に行ってもらいました。ところが、戻ってきた大臣の顔は真っ青でした。大臣は王様に言いました。
「王様、私はバカなのでしょうか」
「はい?」
……しばらくの沈黙の後、王様は大臣に聞きました。
「もしかして……見えなかったの?」
「そうなんです。いくら目を凝らしても、様々な角度から見ましても、私の眼には、何もないはた織り機しか映りませんでした」今にも泣きそうになりながら、大臣は声をふりしぼって言いました。
 

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