「じいちゃん、太郎は凄いでしょ。でも小松菜を抜くことは出来なかったね。小松菜を抜くにはまだ人数がいるのかもしれない。太郎はどう思うかい」サトシは自然と太郎に話をふった。すると太郎は畑から出ていってしまった。それをサトシは何も言わずに見送った。
「きっと太郎は誰かを探しにいったんだ。あいつ友達が多いから」サトシは言った。
「そうか。小松菜は少し動いたからもしかしたら動物は植物を抜くコツが分かっているのかもしれないな」と平治はサトシに言った。さちはそれを静かに見守っている。平治はこの状況に焦りを感じていた。もしこのまま小松菜が抜けなかったら、どんどん人が増えていくのかもしれない。人だけでなく動物も。もし、太郎がまた犬を連れてきたら次は何て言えばいいのかわからない。小松菜が抜けるのはいつなのか。早く抜けてこの状況を終わらせて欲しいとさえ思っているところに太郎が猫を連れて帰ってきた。
「じいちゃん、太郎が友達を連れてきてくれたよ。あの猫は時々家に来る野良猫なんだ」サトシが平治に説明した。「三人は仲が良いのね。きっと猫さんも力になってくれるのね」さちは平然と答えた。それを聞いた平治は「じゃあ小松菜を抜いてみよう」とだけ答えるのが精一杯だった。
「せーの」
小松菜を引いた。すると、小松菜は傾いて根っこが半分見えてきた。
「小松菜が抜けそうだ」さちとサトシと太郎と猫は笑顔で喜んでいる。それを見た平治は違和感を感じていた。大きな小松菜、何でも肯定する優しい妻、友達だと言って犬を連れてくる孫、犬なのに人の言葉を確実に理解しているであろう太郎、犬と友達だという猫。その全てがおかしい。コツコツ育てた大きな小松菜これが目の前にある限りこの奇妙なことは続くのかもしれない。そう思うと小松菜をここまで育ててしまったことに後悔を感じてしまった。
「おじいさん、小松菜はもう抜けそうです。猫に誰か連れてきてもらいますか」とさちが言う。
「そうだな」平治は無意識に返事を返した。
それを見ていた猫は畑から出ていくと、すぐに何か加えて戻ってきた。加えていたのは猫が捕らえたねずみだった。もうおかしいではすまされない。猫がネズミを食べずに優しく加えて持ってくるなんて。