小説

『大きな小松菜』田中田(『大きなカブ』)

 小松菜は収穫時期になると、今まで育てていた野菜が嘘のように普通に育った。それを知ったさちは「きっとおじいさんの想いが野菜に通じたんですね。大きい小松菜が食べられるのが楽しみね」いつになく楽しみにしているさちの一言は平治の心に響いた。平治はもっと大きくなることを信じて収穫することはせず、葉の一枚一枚に水をあげ続けた。努力は意地に代わり、大きくならない小松菜から収穫していった。そうして小松菜は最後の一株になった。小松菜とは言えないくらい大きく、畑の半分を埋め尽くし平治と同じくらいの高さになっていた。
「最後の小松菜はのびのび育って、わたしの背にも届きそうだ。もうそろそろ収穫してやろうと思う」平治はさちに言った。
「おじいさん。ここまで育った小松菜はきっといままでにないわ。優しく穫って、大事に食べましょうね」
「それなら一緒に収穫しよう」平治がさちに提案した。
「あれは育ちすぎて、一人では抜けないかもしれない。ばあさんも一緒にいてくれたら心強い」
そうして二人で収穫へ向かった。大きな小松菜を平治は素手で抜き始めた。しかし、大きく育った小松菜は深く根付きビクともしない。それを見たさちも平治を手伝い、一緒に抜き始めた。
「小松菜の根は丈夫で抜けない二人じゃビクともしない。もう切ってしまおうか」平治が提案した。
「おじいさん、それは小松菜に失礼だよ。私が誰か連れて来ましょう」さちが答え、畑から出て行った。
 

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