小説

『大きな小松菜』田中田(『大きなカブ』)

「みんなで引いたら抜けるかもしれない」誰かが言った。
「じゃあ引こう、せーの」六人で小松菜を引いた。
すると、小松菜は音も無く奇麗に抜けた。平治の目の前には根まで奇麗に抜けた大きな小松菜が横たわっていた。それを見て、さちもサトシも太郎も猫もネズミも喜んだ。独り喜んでいないのは平治だけだ。
 大きな小松菜なんて現実的にあり得ない。それに気がつかなかったのか。そんな気持ちが溢れていった。今まで忘れていた。平治は畑で小松菜なんて育てていない。先日長年寄り添った妻のさちに先立たれてから畑へは行っていない。その土地は息子がいつの間にか相続していた。それを孫のサトシは黙ってみていた。大きな小松菜は平治の理想の固まりだった。空想だった。しかし、小松菜も抜けたから現実に戻るしかない。
愕然とする平治の目の前には一粒の種が置いてあった。

 

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