独りになった平治は小松菜に話しかけた。「大きな小松菜、お前はきっと沢山の人に食べてもらうために育ったのかもしれない。だけどわたしには友人も少ない。お前の立派な姿を見てもらいたいなあ」歳をとってから友人も年々少なくなりその事実に悲しい気持ちになってきた。
「おじいさん、孫のサトシを連れて来ましたよ。力もあるからすぐに抜けるでしょう」さちは近所に住む高校生のサトシを連れてきた。サトシは大きな小松菜を見て言った。
「これは本当に小松菜なの。こんな大きな葉っぱ見た事ないよ。これで傘になりそうだ。じいちゃん、俺は野球部で鍛えているから自信があるよ」
そうして今度はおじいさんとおばあさんと孫のサトシの三人で小松菜を抜こうと引っ張った。
「せーの」のかけ声で一気に引いた。それでも小松菜はビクともしない。
「丈夫な小松菜は三人じゃあ抜けないな。やっぱり、機械で抜いてしまおうか」平治が疲れた顔で提案した。そんな平治を見たサトシは「じいちゃんが一生懸命作った小松菜を機械で抜いたら傷つけてしまうかもしれないよ。俺が友達を連れてくるからまってて」と言って畑から出て行った。
「サトシは良い子に育ったな。部活も頑張っているみたいだし、この小松菜も良い子に育ったってことか」平治は孫の成長を嬉しく思って自然と笑顔になる。
「そうですね。部活が無い日は私たちの家まで遊びにきてくれるし、ほんとうに良い子ね」さちも笑顔で答える。二人が孫の成長を嬉しく思っているところにサトシが帰ってきた。
「じいちゃん、太郎を連れてきたよ。きっと機械よりも丁寧に小松菜を抜くよ」サトシの隣にいたのは柴犬だった。しっぽを思いっきり振って可愛い笑顔を見せる犬だった。それを見た平治は「4人なら抜けるかもしれないな。同時に小松菜を引っ張ってみよう」と平然と答えてみたが、心の中ではサトシが犬を連れてきたことに疑問でいっぱいだった。サトシが連れてくると言ったからてっきり高校の友人でも連れて来てくれるものだと思っていたからだ。三人で抜けない大きな小松菜を犬の力が増えたことで何か変わるとも思えない。むしろ食べられてしまうかもしれない。それがサトシに分からなかったのだろうか。そんな思いを胸の内に平治は「せーの」とかけ声を言った。すると太郎はサトシと一緒に小松菜を引いた。すると今までビクともしなかった小松菜が少し動いた。