「職場って、・・・なんか、よくわかんないですよね、・・・なんでだろ、・・・言うことが限られてくるっていうか、・・・こんなに長い間、生きてて、毎日戦争とか、空爆とかは起きてて、まあでも、そういう悲しいことだけじゃなくって、・・・友達の子供が生まれたとか、実家の親の体調がだんだん良くなっていったりとか、そういう嬉しいこともあるのに。・・・田中さんにも、大内さんにも、森下さんにも、毎日顔合わせてるのに、ぜんぜんしたことのない話、いっぱいある、おれ」
実感としてのすべてを、間島はついつい、ぜんぶ森下に言ってしまった。
「だいたいみんな、そうだと思いますよ、でも間島さんて、そういうことは思っても、私にはそういうこと、言わないと思ってた」
「・・・そうですか?」
「うん、・・・もっとなんていうか、墓場までそういう感情は、持って行くっていうか、でもいいですね、口に出すの、・・・なんか、女の子みたい、女子中学生みたい」
森下はくすくすと笑った。
「ひどいなあ。・・・森下さんだって、なんか世界の終わりとか、言ってたじゃないですか」
「まあ・・・ねえ」
森下は伸びをした。
「大学生のころ、両親が、私が講堂で授業を受けてる時間に、亡くなっちゃったんですよ、交通事故で。・・・だからそう思うのかもしれません、ことさらに」
「・・・え・・・」
「いや、ごめんなさい、間島さん今日素直だから、・・・私も、話してしまいました、・・・なんか」
「・・・すいません・・・」
「いやいやいや。・・・謝ることないですよ」
森下はコーヒーを飲み干した。
「あの・・・会社とか、電車の中とかでも思うんですか?」
「ううんこういう、ホールの中でだけ。・・・そんな、辛いとか、トラウマとか、そういう感情ではないんで、安心してください。・・・むしろ、落ち着くんです」
しばらくすると再び、館内にアナウンスが響いた。出演者遅延の関係で、予定を変更させていただきます。トークショーは上映の最後に行うこととなりました。どうかご了承くださいませ。これより、予告編に続き、120分の本編を始めさせていただきます。