不覚だった。やるべきことも、やりたいこともまだまだあったのに。いつかやろう、そのうちやろう、そう思っているうちに死を迎えてしまった自分が、ただただ情けなかった。
その時、老人が初めて口を開いた。
「自分の葬儀を見てどんな気分かな?」
「俺は自分が情けない。やりたいことも、やらなきゃならないことも山ほどあったのに・・・」
「ほぅ。何故今までやらずにいたのかな?」
「それは・・・ まだ時間があると思っていたから」
「そうやって油断しているうちに持ち時間はどんどん減っていく。その一方でツケはどんどん溜っていく。死を目前にして初めて、時間が有限であったことを思い知る。そして、こんなはずじゃなかった、と後悔しながら死んでいくことになる」
「そんな・・・」
「よいか、人間というものはな、自分がしたことで後悔するのではない。自分がしなかったことで後悔するものなのじゃ」
ズバリ痛い所を突かれ、俺は言葉もなかった。
「では何故、人間は後悔すると分かっているのに、したいことを先延ばしにしてしまうか分かるかな?」
「それは・・・ つい億劫になったり、自分に自信がなかったりするから・・・」
「そう、失敗して自分が傷つくのが怖いからじゃな。周囲の目を気にして、他人の口を恐れて、行動することを先送りしてしまう。死を迎える時に後悔することになるとも知らずにな」
俺は恐る恐る老人に聞いた。
「あなたは死神なのですか?」
老人の表情が少し緩んだように見えた。
「おっと、申し遅れたわい。わしは未来の聖霊じゃ。お前さんに未来を見せるために来たんじゃ」
「俺に未来を見せる・・・?」
老人は軽く頷くと続けた。
「昔から続くクリスマスの恒例行事でな。三人の聖霊が人間に戒めを与えるために訪れる。今年はお前さんの番なんじゃ」
俺は自分の葬儀を指しながら聞いた。
「じゃ、あれは俺の未来の姿ってこと? つまり俺にはまだ時間があるんですか?」
老人の聖霊はゆっくりと頷いた。