小説

『クリスマスの聖霊たち』和木弘(『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ)

 「じゃが、今のままでは近い将来、ああなってしまうな」
 「今からでも未来は変えられるんでしょうか?」
 「それはお前さん次第じゃな。未来を変えるカギは現在にある。どんな未来を創るかは、現在のお前さんにかかっている、ということじゃ」
 「俺の未来を創るのは現在の俺・・・?」
 「そうじゃ。後悔しない人生を送りたいなら、未来のために種を蒔けるのは現在しかないんじゃよ」
 老人の聖霊は上着のポケットから懐中時計を取り出すとチラッと見た。
 「おっと、もう時間じゃ。次に行かないと。すぐに二番目の聖霊が来て、続きを説明してくれるから、そのまま待っていなさい。では、ごきげんよう」
 そう言うと、老人の聖霊はすぅーっと消えてしまった。
 俺は再び闇の中に取り残された。
 自分が死んでしまったわけではないと知り、少しホッとしたものの、頭は混乱していた。

 「ちょっとあんた!」
 突然の声にびっくりして俺は振り向いた。
 そこには五〇代と思しきおばちゃんが立っていた。どこにでもいるような普通のおばちゃんにしか見えない。
 俺は恐る恐る聞いてみた。
 「あなたが二番目の聖霊さん?」
 「そう、私が現在の聖霊よ。何か文句あるの?」
 「いえ、特には・・・」
 俺はおばちゃんパワーに圧倒されながら答えた。
 「まぁ、いいわ。じゃ、さっそくいくわよ」
 そう言いながらおばちゃんの聖霊が指さす方向を見ると、そこに映し出されたのは俺自身の姿だった。しかし随分と若い頃の俺だ。
 それは新入社員時代の俺の姿だった。真新しいスーツに身を包んで、少し緊張気味だが、初々しくもある。
 俺の姿を見て、おばちゃんの聖霊が言う。
 「いい顔つきしてるじゃない。目も輝やいてるわ」
 社会人になりたての頃の俺は、やっと大人の仲間入りができたという思いで毎日が新鮮で楽しかった。あの頃の気持ちが呼び覚まされて、俺は胸が温かくなるのを感じた。
 

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