小説

『桜木伐倒譚』大宮陽一(『ワシントンの斧』)

 自分で書いてきたものを読み返してみれば、ここには孫の私と祖母を直接つなぐ小話がどこにも表現されていないことがすぐにわかる。これでは著者と祖母の関係も分からず、読者は語り手の気持ちを味わうこともできぬまま放置され、混乱してしまうばかりだ、とまっとうな意見を述べる方もいらっしゃるだろう。しかし、そうしたご立派なご批評は今回一切受け付けるつもりはない。
 私はこれまでの短い記述のなかで嘘なんてなにひとつとしてついてない。私と祖母のあいだにのみ所有すればいいものを、ここにたらたら書くなんてイカレタ真似など、私には決してできない。何なら、私の職業を思い出してもらいたいものだ。
 私には私の葬儀がある。私は、私の祖母の姿が見えるように今から私の桜の木を伐り倒さねばならない。
 チェーンソーよ、吹き上がれ。じっと念じて、席を立つ。           

 

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