小説

『かちかち山のこと』青色夢虫(『かちかち山』)

 善良なるタヌキはこれを二つ返事で了承した。我が身は人のようには大きくないが、様々なものに化けて助けてやろうと言っていたと、ウサギは証言したようである。
 ウサギはびくびくと震えながら、老女の家までタヌキを案内した。そして、一人タヌキを家へと追いやったのである。狡猾なる老女はその様を戸棚の陰からじっくりと眺めていた。ウサギが逃げたのは業腹だが、仕方ない。今、出て行ってはせっかくのタヌキにすら逃げられてしまう。おそらく、老女はそう考えたに違いない。
 ウサギよりも緩慢とはいえ、その体躯ははるかに立派なタヌキである。小さいが牙もあり、爪もある。そしてなによりタヌキが化けること、変幻自在である。ゆえに、老女は思ったに違いない。タヌキが油断しているうちに、一打ちで仕留めるがよろしいと。
 老女は大きな木槌を背に、天井の梁へと登り、タヌキが現れるのを待った。そして、その茶褐色の体躯を認めるやいなや、鶏鳴に似たしゃがれ声を発し、木槌を大上段に構え、勢いよく飛び降りた。
 結果的に、この勢いがよくなかった。高く掲げた木槌は屋根裏へと激突し、瞬間、老女の姿勢は乱れ、木槌がすぽんと抜け飛んでしまった。空へと舞った木槌は二転、三転しながら、地へと落ち、そこにまったく不幸なことに、先に着陸していた老婆の干からびた後頭部があったのである。
 まるで地に落ちたトマトのように、老婆の頭はくしゃりとひしゃげ、血が噴き出した。なんたる幕切れであろうか。幼き頃より数多の人を傷つけた悪女は、こうしてその一生を閉じたのである。
 その様を見て、驚き慌てたのはタヌキであり、また戸外から覗き見ていたウサギであった。けれど、タヌキは紛うことなき善タヌキであった。事故とはいえ、見てしまったのだ。誤解されるやもしれぬが、おじいさんへ事の次第を丁寧に伝え、ともにこの哀れなるおばあさんを弔うべしとそう考えたのである。
 

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