小説

『かちかち山のこと』青色夢虫(『かちかち山』)

 最後に記事に書かれし、おじいさんの言葉を引いて、この文章の終わりとしたい。あまりの邪悪さに目をつぶることなく、真実を見ていただきたい。
「吾、兎の姦計にはすぐに気づけり。けれど、兎のつくりしババア汁なるものの味を知りたくて黙れり。愛妻の出汁でできし、汁、美味なること狸や兎などと比べること能わず」
 愛する者すら食らう恐ろしき老翁と、自分のために他者を生贄としたウサギ、どちらがより悪党であるか、私には判断すること叶わない。
 ただ賢明なる読者諸君よ。
 かちかち山はすでに燃え消え去ったが、タヌキの汚名は消えていない。これを読み、もしもタヌキに一抹の同情を下さるならば、タヌキを悪と描く、世の絵本のすべてを燃やすことを希うものである。

 

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