小説

『凸凹仲間の新たな挑戦』春日あかね(『ブレーメンの町楽隊』)

「とにかく、あなた方がしたことは、立派な犯罪ですよ」猫柳(ねこやなぎ)が犬川の背後からそお〜っと顔を出して、三人に向かって言葉を吐き捨てた。
「け、け、警察だけには言わないでくれ」今にも泣き出しそうな目をして、恰幅のいい男が呂端(ろばた)にすがりついた。
「だけど、このまま逃してしまったら、また同じことを繰り返すに決まってますよ」
 と、鳥山が言うや否や、恰幅のいい男が床に両手をついて正座した。「お願いします、もう悪いことはしません!」両側に並んで立っていた二人の子分の腕を掴んで引っぱり、二人の頭を床に押さえつけ、土下座させた。

 犬川が呂端(ろばた)の耳元でささやいた。
「呂端(ろばた)さん、この人たち、信用できますかね?」
「う〜ん、どうかな?だけど、もしかしたら、警察に突き出したところで、本当に反省するものでしょうか?こんな世の中だし、泥棒をせざるを得ない状況があったのかも・・・。みなさんはどう思います?」呂端(ろばた)が、犬川、猫柳(ねこやなぎ)、鳥山の意見を求めた。
少しの間、沈黙が続いたが、鳥山がそれぞれの目を覗き込むように、「そうですね。この際、やつらを教育するとしますか?」
「そりゃいい考えだ」呂端(ろばた)も犬川も猫柳(ねこやなぎ)も鳥山の意見に賛成した。

「あの、お三方、どうです?私たちと一緒に繁座へ行くというのは?」
「繁座?」と、恰幅のいい男が目を丸くした。
「はい」と、猫柳(ねこやなぎ)。
「繁座へ行って、私たちと音楽をしようじゃないですか?」
「音楽かぁ・・・。確かに、繁座ってところは、そういうのが盛んだよな」
「親分、面白そうじゃねえですか?」
「じゃあ、俺はベースギターだ。これでも、昔はバンドやってたんだぜ」
 恰幅のいい男は、すっかりその気になって、ギターを演奏するまねをした。
「あ、そう言えば、さっきのぉ・・・、俺たちをびっくり仰天させたときのあのリズム!あれ、すごかったぜ〜」と、小太りの男が言うと、後の二人 が、何度も首を縦に振り、意見に賛同した。

 それから、男たちは鳥山の家に入り、全員そろって簡単に食事をした。皆、沈黙だった。しかし、その沈黙を破ったのは、恰幅のいい男だった。

「ま、俺たちもさ、働いてた鉄工所が閉鎖しちまったんだよ。俺はこいつらの雇い主だったしさ、何とかこいつらを食べさせなきゃって思ったのさ」
「親分、こういう人ですけど、いい人なんです」そう言いつつ、二人の子分は涙を拭った。
「そうか、そんなことがあったんですね」呂端(ろばた)はうつむき、唇を噛み締めた。
「私たちと一緒に頑張りましょうよ」猫柳(ねこやなぎ)が隣にいた恰幅のいい男の肩をポンと叩いた。
「そうだ、そうだ!私たちだって、まだまだこれからですよ!」みんなを励ますように犬川が叫んだ。
「じゃ、乾杯といきますか!」鳥山がグラスを掲げた。
「乾杯!」
 カチ〜ンとグラスとグラスがぶつかり合う心地よい音が部屋中に鳴り響いた。その日を境に、七人の男たちは、鳥山の家で仲良く暮らし始めた。他人同士が生活を共にしながら、生きていく・・・。それは、シェアハウスの先駆けのようにも思われた。

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