八月三十一日
見事な快晴だった。雲一つなく、見渡す限り一面真っ青な空が広がっている。
この上なく気持ちのいい日だった。爽やかな風が吹き、鳥たちのさえずりが聞こえる。
ジャーヴィス・ペンドルトンはお気に入りのスーツを着て、シルクハットを被り、手袋を嵌め、ステッキを握った。鼻歌を歌いながら出かける。
行先は郵便局だ。ただし、いつも利用している屋敷に一番近い郵便局ではない。彼はまずニューヨークの駅に向かい、そこから汽車に乗った。長い間汽車に揺られていたが、全く退屈しなかった。今日自分が行うこと、そしてこれから訪れるはずの自分とジュディの未来を想像しているだけで、あっという間に時間が過ぎた。
ワシントンD.Cに到着すると、ジャーヴィスは駅から出てすぐの所に真っ赤なポストを目ざとく見つけた。まるで血の色のようだ、と彼は思った。
一通の手紙をスーツの内ポケットから取り出し、ポストに入れた。かたん、という音がして、手紙は投函口の中に吸い込まれていく。まるでジミー自身が真っ暗な闇の中に消えていったような気になり、ジャーヴィスは口の端で静かに笑った。
投函した手紙は、宛先が「ジミー・マクブライト」、差出人はジミーの友人となっている。中身はどうでもいい文章が並んでいるだけだった。彼がタイプライターで適当に作成したものだ。ただし、封筒を開けて手紙を取り出すときに、必ず手に傷が付くように複数個所にカッターナイフの刃が仕込んであり、そちらは適当ではなくかなり念入りに確認しながら作業をしたものだった。その刃には茶色の小瓶の毒薬が仕込まれている。効果は抜群。過去に彼にとって邪魔であった者たちが漏れなく実証済みだ。
十月四日
ジャーヴィス・ペンドルトンは肺炎で入院していた。なかなか体調が良くならないため、長期間の入院となってしまった。ほぼ一日中ベッドの上にいるがやることもないので、ジュディ・アボットからの手紙を全て秘書に持ってこさせ、読み返している。彼女は非常に筆まめだった。間隔が空くこともあったが、たいていは頻繁に手紙を寄越してきた。手紙を読んでいると、まるで実際に彼女が横にいて話をしているかのように感じられた。勉強のこと、友達のこと、農場のこと、ジャーヴィスのこと・・・。
手紙に目を通しながら、これからジュディ・アボットをどのようにして落とすか、そのことばかり考えていたある日、ジュディからの手紙が届いた。ジャーヴィスは驚愕した。ジュディは実は彼のことを愛しているのだという。
彼の全身を幸福感が包んだ。完璧な容姿を持つ女を妻にするという、少年の頃からの夢が叶うのだ。
ジャーヴィス・ペンドルトンはジュディが孤児であることを知らないことになっている。彼女は大金持ちのジャーヴィスに、自分が孤児であることをどうしても話せないため、彼の求婚を断ったのだそうだ。そして悲しみに暮れ、どうすればよいか分からない、あしながおじさんに直接会って相談したいと訴えている。早急にジュディに会わなければ。