小説

『あしながおじさん』香田希子(『あしながおじさん』ウェブスター)

 最近では彼は時々ジュリアへもプレゼントを贈るようにしていた。何か頼みごとをするときにすんなりと聞き入れてくれるようにするためだ。
 ジュリアを訪問し、彼女と二人だけで話をした時間はほんの少しだったが、非常に退屈だった。会うのは赤ん坊のとき以来という、興味のない姪に対して話すことなど何もない。
 しかし、ジュリアがこれから抜けられない授業があると言い出したときから、彼の心は浮足立った。ジュリアには、せっかく来たのだから、同じ階の同い年の女の子がいれば、その子にお願いして僕に大学を案内してくれないかな、と用意しておいたセリフを美青年の微笑み付きで喋った。プレゼント作戦が功を奏したのか美青年の微笑みが効いたのか、ジュリアは言うとおりにしてくれた。
 同じ階の同い年の女の子はジュディ、ジュリア、サリーしかいない。そして彼は抜かりなく、ジュリアとサリーに重要な授業があり、ジュディにはない時間帯を調べ、そこを狙ってやって来ていた。
 彼は孤児院で初めてジュディに目を付けたときのことを思い出した。当時のジュディは、常に働かされていた上に大した食事をとっておらず、痩せぎすだった。精神的にも満たされていなかったため、顔にも沈んだ表情が纏わりついていた。そして古ぼけたギンガムチェックの服を着て冴えないおさげ頭だった。それにも関わらず、彼は一目でジュディ・アボットの虜になってしまったのだ。一見したところでは、彼女は「孤児」以外の何物でもなかった。しかしよく見ると、顔のパーツは全て彫刻の様に整っており、絶妙なバランスで配置されている。何より彼を惹きつけて止まなかったのはジュディの目だった。ぴっちりと切り揃えられた前髪の下から覗くその大きな瞳は水晶のようにきらめいて、彼の心を奪っていった。
 ジュディ・アボットを手に入れる。必ず。
 久しぶりに見るジュディはさらに美しく成長しており、眩しいほどだった。今では、毎日美味しいものを食べ、好きな服を着て好きな本を読み、あくせく働かされることなく大学生活を謳歌している。彼女は少しふっくらし、顔には上品な微笑みを浮かべ、全身から輝くオーラを放っていた。以前彼女が纏っていた「孤児」の雰囲気はどこにもない。ジュディが予想通りの完璧な美女に成長したことを確認し、彼はこの上なく満足した。
 ジャーヴィスは容姿が良いだけでなく話術も巧みだ。ジュディを何度も笑わせたり、同調させたり、もっと話を聞きたいと思わせたり、あるいは彼女がもっと自分のことを話したいと思わせることに成功していた。
 ジュディはジャーヴィス・ペンドルトンがあしながおじさんであることを知らない。さて、今日のことをジュディはあしながおじさんにどのように手紙に書いてくるだろうか、と彼は思った。

七月二日

 ジュディは手筈通り、夏休みの間ロック・ウィロウ農場で過ごしている。
 彼女は農場の人から、この農場はジャーヴィス・ペンドルトンの持ち主であることを聞き、なぜあしながおじさんがロック・ウィロウ農場を知っているのかと疑問に思っているらしい。
普通ならそこであしながおじさんとはジャーヴィス・ペンドルトンなのではないかと気付いても良さそうなものだが、手紙の様子から察するにジュディは全く気付いていないようだった。

 九月二十七日

 ジュディは二年生になり、寮ではサリー、ジュリアと同室になった、と手紙で報告してきた。またジュリアを通してジュディに会いに行く計画を立てよう、とジャーヴィスはほくそ笑んだ。

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