四月三日
ジュディ・アボットは扁桃腺炎をこじらせて病院に入院しているらしい。これはプレゼント作戦の絶好の機会だ。ジャーヴィス・ペンドルトンは、彼女に贈る花束を買いに行こうと考えた。
五月二十八日
ジャーヴィス・ペンドルトンは、ジュディ・アボットが夏休みの間ロック・ウィロウ農場で過ごせるよう手配していた。そこは彼が所有している農場である。
ジュディが夏休みの間に過ごす場所を提供してあげなければ、また孤児院に戻り働いて過ごす他ない。そして彼女は死ぬほどそれが嫌だと、あしながおじさんに対して訴えてきている。
彼女が孤児院に戻り、院長に夏休み中こき使われてへとへとになったあげく、食事はいつも粗末な物、ということになったとしても、彼は何とも思わない。だが、ここで農場に行かせてあげることで彼女に恩を売っておくのである。
五月二十八日
ジャーヴィス・ペンドルトンは鏡に映る自分の姿を念入りにチェックしていた。
黒い帽子とステッキに白い手袋。パリから取り寄せた、長身にぴったりの真新しいスーツ。鏡の中の自分に向かって微笑んだ。美青年が微笑み返す。
彼は非常に整った顔立ちをしており、美形揃いのペンドルトン家の中でも最も美しい顔をしている。常に何人もの美人と交際を続けていられるのも、この美貌の恩恵なくしてはあり得ないことだ。
明日ジュディ・アボットは、この完璧な姿を初めて見ることになる。鏡の中の自分を見つめ、ジャーヴィスはジュディの好意を得ることに自信を深めた。
五月二十九日
ジャーヴィス・ペンドルトンは、ジュディ・アボットと正式に対面し、二人きりで楽しいひとときを過ごすことに成功した。
ジュリア・ラトリッジ・ペンドルトンはやはり役に立ってくれた。ジュリアがジュディに説明した、ジャーヴィスとジュリアの関係は次のようなものである。
ジャーヴィスおじさんが、ジュリアのことを赤ちゃんのとき一目見て気に食わないと思い、それ以来ずっと会っていなかったのだが、仕事で近くまで来たからちょっと姪の様子を見に来た、というものだ。そんなことは普通に考えれば相当おかしい話なのだが、ジュディは何も疑いを持っていないようだった。
ジュリアのことを気に入らず、今まで一切会っていなかったのは事実だ。しかし、仕事のついでに姪に会うため大学に来た、というのは大嘘である。
ジュディがジュリアと同じ大学に入学したのも偶然ではない。ジュディをどこの大学に行かせるか、ということを考えていたときに、ずっと会っていない姪がたまたまジュディと同い年だったことを思い出したのだ。確認すると、姪は名の知れた大学に進学が決まっているという。これ幸いとばかりにその大学を聞き出し、ジュリアにはそこへ行かせることに決めた。勿論、今日の様にジュリアを通して自然にジュディ・アボットと接触するためである。ジュディがどこの大学で何を学ぼうが、どうでもいいのだ。彼女の学歴や性格や趣味嗜好がどうであろうと、彼は何も問題としなかった。
ジュディ・アボットとジュリアが寮の同じ階になったことも、ジャーヴィスが大学の関係者に金を握らせて仕組ませたことだった。大学の寮で近くの部屋にいる者同士は、まず友人になるものだ。ならなかった場合も、ジュリアに何らかのアクションを起こさせるよう仕組むつもりだったが、その必要はなかったようだ。