ええっと、こういう気持ちをなんて言うんだっけ。必死に言葉を考えていても良い言葉が思いつかなかったので、したいようにすることにした。
まずは彼女の頬を両手で掴む。そのままきょとんとする彼女の顔を見ていたら、自然と唇に目は吸い寄せられて、僕はゆっくりと顔を近づけていた。
もう少しで彼女の唇に届きそうになったところで、頬を何かが撫でた。
「え?」
驚く僕に向かって、彼女がにやりと笑う。その手には真っ赤な絵の具がついた筆。
「もしかして」
試しに自分の頬を触ってみると、真っ赤だった。
「いきなり何するんだよ」
「それはこっちのセリフだよ。それに」
彼女は優しく微笑んで、僕の耳元で甘く囁いた。
「私も君が好きだよ」
その言葉で、僕は彼女に恋していると分かった。
今日は昨日と同じように、曇りがちの天気。雨が降るかもしれない。そうしたら、彼女が途中で帰ってしまうので嫌だ。
「やっぱり人魚は不老不死なのかい?」
絵筆を動かしながら彼女が聞いてくる。彼女と気持ちが繋がっていると分かってからの僕の心は比較的穏やかだ。でも、未だに絵には嫉妬するけれど。
「そうだよ。でも、半分は本当で半分は違うかな」
「どういうことだい?」
「最初は老いていくんだよ。一度は老いて、もう嫌だなあと思ったら最初からやり直しできるんだ。それからは自分の好きな体で生きていける。僕のおばあちゃんだって、今は僕と同じぐらいの年になってるよ」
さらりと答えると、彼女は寂しそうに笑った。
「そっか」
「今日は顔色悪いね。どうかした? まだ肌寒いかな」
聞いた瞬間、彼女の体が大きく傾いだ。
「大丈夫?」
咄嗟に受け止めた彼女の体は冷え切っていて、唇の色は紫だった。
「いつものことだよ。最近は調子が良かったから大丈夫だと思っていたのだけれど」
「体、どこか悪いの?」
確かに、彼女の外見は元気いっぱいには見えないし、そこまで強そうにも見えなかったけれども、そんなことを聞いたら後には引き返せないような気がして怖かった。
「昔からね。それに、もうそんなに長くはない」
さらりと呟かれた言葉に、僕は激しく動揺する。
彼女はそんな僕の様子をただじっと見つめて、何か言おうとしてやめ、ふらつきながらも立ち上がる。思わず送っていこうかと言っても、
「今の君の姿じゃ送ってもらえないよ。薬を飲ませるのも悪いし、大丈夫。ただ、しばらくは来られないかもしれない」
まるで別れの挨拶のように彼女は言った。