小説

『永遠回帰』北山初雪(『人魚姫』)

 僕はもう、僕自身がいらない。
 永遠なんてどうでも良い。
 ただ、傍にいたかっただけ。
 それだけの願いも叶えてくれず、誰もが飛びつく永遠を君は選んでくれかったね。
人魚にとっては永遠なんて当たり前だけど、人間の間でもそこまで価値がないものなのかな。長生きはみんなしたいっていうけれど、死にたいとは思ってるなんてちょっと矛盾してるし、分からないよ。そう、僕は最期まで君の気持ちも分からないままだった。
ああ、でも、今なら少し分かるかな。
 息が苦しくて、海底に引っ張られるみたいに体が沈んでいっているから。
 全身で苦しいと叫んでいるのに、それから逃れることもできないままでいる。
 こんなことで苦しくて死んでしまうのが人間なのか。
 もしかして、人間として生きることはできないけれど、人間として死ぬことはできるのかな。そうしたら、人間のままで死んだ君と一緒になれるのかもしれない。
 苦しいのにおかしくて笑ってしまう。けれど代わりに涙が出た。でも、全部それも海に溶けていく。
重い海の中でも届く太陽の光を見つめながら、僕は見えない彼女に手を伸ばす。
 やっと、君と同じになれた。
 それだけのことが、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。
 そして、こんなにも君を好きになるなんて、思いもしなかった。

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