小説

『芋虫から生まれた少女』志田健治(『桃太郎』)

 琉音太郎は、これはしめたと思い、みたらし団子を鬼にあげました。するとその鬼はもの凄い勢いで他の鬼たちを蹴散らしました。これでようやく三人目のお供が揃ったのです。
 琉音太郎と三人のお供は鬼の親分のところまで行きました。こうなったらお供の裏切り鬼と親分鬼の一騎打ちです。琉音太郎も猫もチワワも、他の鬼たちもそれぞれ一生懸命応援しました。
 ついに勝負がつきました。苦労の結果、みたらし団子で雇われた裏切り鬼が勝ちました。琉音太郎と猫とチワワはバンザイ三唱しました。
 こうして裏切り鬼が新しい親分になって、子分たちにしっかりとした教育を受けさせることを約束しました。その代わり琉音太郎は、一年に二度も大量のみたらし団子を鬼が島に送ってやらなきゃいけないはめになりました。めでたしめでたし」
 琉音は眠っている。
 侑は寝袋から飛び出した少女の体を中に押し込む。少女はかすかな唸り声を上げるが、眠りはどこまでも深く、イカかタコのように脱力する。最後にジッパーを閉めて、芋虫は静かな眠りにつく。
「はい、ちゃんちゃん」侑は言う。

 朝。大の男三人の飲み会の後は、散々たるものだった。バーベキューの皿は脂が白くかたまり、空き缶と空き瓶は破滅的な量で、残した料理も余った食材も朝の光でやけに風化して見えた。
 琉音と龍一と小さな葉流は露の降りた芝生の上をつむじのように駆けていた。侑と武井は昨夜の食器を洗い、菅原は朝一番の火を起こした。
「朝めしできたぞー」菅原が大声を出す。
 子どもたちは雄叫びと共に戻ってくる。炭で焼いたマフィンに目玉焼きとハムを乗せてかぶりつく。「やっぱり朝はこれが一番だよね」と龍一が宣言する。「うん。あとコーンスープがあればね」と琉音が付け足す。
「今お湯わかすから」と菅原が言う。「沸いたら自分で入れるんだぞ」
「大人たちはモーニングコーヒーでも飲もうや」武井が言う。
 侑は簡易コンロを使って湯を沸かす。子どものコーンスープと大人のコーヒー。両方に熱い湯を注ぐ。
「ああ、やっぱり朝のコーヒーは格別だな」武井がしみじみと言う。
 侑も食卓について、コーヒーを飲む。隣でマフィンを平らげた琉音はコーンスープの湯気の中から言う。
「ねえ、私ずっと考えてたんだけど……」
「なあに?」
「芋虫から出てくるのはやっぱり蝶だと思うんだよね」
「うん……そうだね」
「でしょ!」と琉音は笑う。

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