小説

『てぶくろを編んで』とみた志野(『手袋を買いに』新美南吉)

「ありがとう」とからくり人形が言った。
「ありがとう」と透も心から言った。

パタンとドアが閉められて雪のにおいがふわりと部屋に漂った。
レジ横の石油ストーブの上にのせられたやかんがしゅーしゅーと音を立ててわいていた。
透はやかんのお湯をそそいでコーヒーを入れ、レジの破けた丸い椅子に座った。

「さぁ、もう一仕事するかな」
透はやっさんとやっさんの彼女におそろいのマフラーを編んであげようと決めていた。人形をつくる才能はなかったけれども透には編み物の才能があったらしい。たぶん。

少しだけこころのもやもやが晴れていた。

電灯に照らされて積もった雪がキラキラと輝いていた。
からくり人形が誰かと話している声が聞こえる。
「人間はちっとも怖くなかったよ。だってほら、こんなに暖かいてぶくろをくれたんだもの」
「ほんとうに?人間はいいものかしら。
ほんとうに人間はいいものかしら・・」

つぶやきはキンと張った空気に溶けていった。

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