急いだ透は足がもつれて雪の中に頭から突っ込んだ。
振動で棚に詰め込まれていた布団が落ちてきて透の上にばさばさと落ちた。
小さな訪問者はいつのまにか見えなくなっていた。
店のまわりはすっかり銀色の世界だった。
雪に敷かれたまっしろい布団の上で透は大の字になって空を見つめた。
降りやまない雪が透の顔に点々と白い模様をつけていた。
あれは確かに俺が作った人形だ。
唐草模様のはっぴを着て餅をつく、からくり人形。
オヤジに習ってちゃんと一から作った。
寒いだろうと手編みの手袋も作って手にはめてあげた。
透の初めての作品、
そして最後の作品。
透の実家は人形屋だった。
父親は地元ではそこそこ名の知れた人形つかい。
人形も自分で作っていた。
特に細かい技巧を必要とするからくり人形は値がはったが人気だった。
それを透は20歳やそこらで作ったのだ。
透には天性の才能があった・・とそう思っていた。当時は。
そんなものがないと気づいたのは父親が死んでから。
母親はとうに亡くなっていた。
父親が亡くなって透は当然のように跡をついだ。
透は自分はできると思っていた。オヤジのように。
いや、オヤジの代よりさらに店を大きくしてやる。
気づいたのはさんざん借金してからだった。
透は父親なしではまったく人形がつくれなかった。
ビジネスの才能もなかった。
周りの人は離れて行き、父親がつくった人形は借金を返す為にすべて売り払い、家もなくなり、透は誰も知らない土地に流れ着いた。
人形はすべて売ったと思っていた。
人間の寝静まったのをみはからって逃げたのだろうか。
餅をつきながら。
手袋は?急いでいてはめ忘れたのか?
透はその様子を想像してふふっと笑った。