小説

『そして、笠地蔵』よしづきはじめ(『笠地蔵』)

 

 そうして東の一団が立ち去ったあとには、たくさんの米俵と織物、そして東の国の作物が置かれていました。思わず駆け寄る村の衆のあとに、へなへなとその場に崩れ落ちるお爺さんの姿がありました。
「さすがに、こたえたわい」
「お疲れさまでした」
 お婆さんが優しく声をかけます。
「うまくできたかのう」
「それはもう、見事な立ち回りでしたよ。これがそのあかしです」
 お婆さんに促された先を見ると、褒美を囲んで喜ぶ村の衆の姿がありました。
「すべて、婆さんの言うた通りじゃ」
 お婆さんは、ふふふ、と笑い、お爺さんに言いました。
「何とかなりましたね、お爺さん」
「そうじゃな、婆さん」

 
 それからしばらくのこと。
 抜け道からほど近い街道沿いに、五体の地蔵が据え置かれました。
 こしらえたのは誰かと、詮索をする者はありませんでしたが、そこにお供えが欠かされることはありませんでした。

  
 やがて時代はくだり、いつの頃からか『お地蔵さまに笠をかぶせたことでありがたい贈り物があった』という話がまことしやかに伝えられるようになりました。
 今でも雪の日には笠をかぶせる習わしですが、なぜか一番東側のお地蔵さまには手ぬぐいをかけなければならないそうです。それも、真っ白ではなく、必ず柄のあるものを。
 それは身を守るためのおまじないだと伝えられていますが、今では誰も、その本当の理由を知らないということです。

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