それから、子供を交互に抱き抱える老夫婦をひとしきり見てから、親分たちは来た道を引き返して森の方に向かっていった。
老夫婦が気づいたときには、そこには宝を取り返してくれた四人の姿はなかった。
「名前も聞けなかったわね」
おばあさんは眉間にしわを寄せ、悲しそうに言う。しかし、おじいさんはどこか吹っ切れたような笑顔で言い返した。
「なに、名前なんぞなんでもいいのさ。それこそ、桃をよくくったあいつは桃太郎で」
「やんちゃなあの子は犬っぽかったわね」
「いつも笑ってわしらにべったりだったあいつは猿だな」
「物静かで綺麗な顔をしとったあの子は雉かしらね」
老夫婦は、今まで交代で家に尋ねてきた四人の男達に仮の名前を当てはめていく。そして成長した子供に聞かせ、子供から近くの村に、村から国にその話は広まっていった。話の内容は世間に広まるうちに多少変更が加えらていったが、それでも物語を話す人たちは皆一様に、とても楽しそうに話していたという。桃太郎の、そのお話を。