小説

『魔法使いのおはなし会』金銀砂子(『シンデレラ』)

 創造主はおはなしを聞くお礼になればと、人の困りごとを助けるようになりました。このことを人々は『魔法』と呼び、たいそう喜びました。創造主は人が笑った顔に滅法弱く、乞われるまま魔法の使い方を教えてやりました。
 こうして創造主は『さいしょの神』『さいしょの魔法使い』となったのです。
 ところが、ある時悲しいことが起こりました。ある日読んだおはなしに、魔法を使う人々がひどいことをされていることが書いてあったのです。魔法を使える人はどうしたことだか、創造主の声を聞けるものと同じように少なく、その数少ない魔法使いたちはいろいろな場所で、そうでない人々から追いやられ、時には命を奪われることさえありました。
 創造主は、自分がしたことがいけなかったのだとひどく嘆きました。そうしてなんとか魔法使いたちを救おうと、彼らにより強い力を付けさせたり、魔法で魔法使いを守ったりしました。けれども一向に具合は良くならなりません。
 そこである時、創造主は自分が『よい魔法使い』として振る舞えば、魔法使いがよい存在だとわかってもらえるのではないか、と思いつきます。さっそく創造主は人の世界に出かけました。
 困った人を探していると、あるところで、灰にすすけた服を着た美しい娘が、いじわるな継母と姉たちからいじわるな仕打ちを受けていました。そこで創造主はその娘のところに魔法使いとして現れ、娘の願いを叶えてやります。娘は、それはそれは素敵なドレスを着て舞踏会に行き、その国の王子と結ばれました。
 それからしばらくすると、創造主が考えた通り、人々はその出来事をもとにして『シンデレラ』というおはなしを作りました。
 これでもう大丈夫、と創造主は安心しました。『シンデレラ』には魔法使いが『よい魔法使い』として描かれていたからです。これで人々は魔法使いがよい存在だとわかってくれる。創造主はそう思っていました。
 しかし、さらに悲しいことが起こりました。魔法使いが『わるい魔法使い』として描かれる『シンデレラ』が別の人によって生み出されたのです。こうして創造主の願いは叶わず、創造主は自分を責めました。魔法使いになんてならなければよかった。皆はわたしのことを全知全能だとか、なんでもできると言うけれど、違う。知らないことは知らないし、何でもなんか、出来ない。今回だって駄目だったじゃないか。もうなにをしても仕様がない。  
 そうして、創造主は人と交わることも、おはなしを読むことをやめてしまいました。

 それからどれくらい時が経ったでしょう。創造主はふと人々のことを思い出しました。あのあと、愛しい魔法使いたちはどうなったろう。知るのは怖い気がしましたが、人々の笑ったところを思い浮かべると、自然と身体が動いていました。創造主は懐かしい碧の星を覗き込みました。
 するとどうでしょう。『魔法使い』が描かれたおはなしを大人も子どもも楽しそうに読んでいるではありませんか。特に驚いたのは『魔法少女』と呼ばれる魔法使いたち。踊り子のように可愛らしく、表情豊かでいきいきとして、なにより人々にとても愛されているように見えました。創造主はとても戸惑いました。これは一体なんだろうと。これまでも『よい魔法使い』は居た。けれども、これほど愛され、生きる喜びに溢れた魔法使いが居ただろうか。
 そうして創造主は思いました。
 わたしにはなにが足りなかったのだろう、と。どうすれば、皆に喜ばれる『よい魔法使い』になれたのだろう。どうすれば、ずっと一緒に居られたのだろう、と。

     ☆

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