小説

『カモノハシの卵』空家和木(『浦島太郎』)

 そして、太陽はサングラスをかけて見たが、すごい迫力だった。あまりの暑さに汗をびっしょりとかいたので、翔は下に降りたら着替えようと思った。
「さぁ、そろそろ戻るぞ。ちゃんと掴まってなさい」
「あぁ、楽しかった! 帰りはどうするの?」
「帰りは、ブラックホールだ!」
 翔が驚く間もなく、コースターは正面の黒い塊の中へと吸い込まれていった。そして、行きとは逆に垂直に回転しながら落下していく。

「宇宙の旅はどうだった?」
 コースター乗り場の外へと出ると、翔たちを待っていたサンタが言った。
「うん! あんなの見たことない」
 翔の顔を見たサンタはとても嬉しそうだ。
「そろそろ、お食事にしませんか?」
 トナカイが提案した。
「僕も小腹が空いてきちゃいました」
 王子様が続く。
「お前たちには訊いておらん! どうだね、お腹は空いたかい?」
 翔はトナカイと王子様の顔をチラッと見て、うんと頷く。
「よし、それじゃあ、パーティーを始めよう!」
 中央の広場へと行くと、もうすでにたくさんの人が集まっていた。とても長いテーブルの上には、翔が見たこともないようなご馳走がずらっと並んでいる。翔が皿に取り分けていると、隣で王子様が骨付き肉にかぶりついていた。王子様なのに行儀が悪い、と翔は思った。
 そのうち、花火も打ち上げられた。ただの花火ではなく、空で弾けるとイルカの群れとなって夜空を泳ぎ回った。鳴き声も空から聞こえる。その後、上がった花火はクジラだった。そのクジラは潮を吹いたと思えば、さらに上空で特大の花火が打ち上がった。そして、空からはキラキラとした紙ふぶきやお菓子が降ってきた。これが魔法ではないのなら何なのか? 翔にはいくら考えてもわからなかった。
 翔が王子様と話していると、サンタが声を掛けてきた。
「もう一人、紹介したい人がいるんだ」
 そう言ってサンタが連れてきたのは、お姫様だった。本当に絵本に出てくるような外国の青い瞳をしたきれいな女性だった。こんなに美しくて、しかも外国の人と話したことのない翔はどうしたらいいかわからなかった。
「こんばんは。あなたに会えてとても嬉しいわ。私と踊って下さるかしら」
 お姫様は流暢な日本語で翔に伝えると、手を差し出した。
「お姫様からのダンスの申し出なんて、なかなかやるなぁ」
 王子様が羨ましがる。翔は顔を赤くしながら、お姫様の手を握った。
 踊りなんてしたことはなかったので、翔は音楽に合わせて好きなように踊った。お姫様も楽しそうだ。翔の緊張はいつの間にかなくなっていた。
 翔は、時間なんて気にならないくらい夢中で楽しんだ。
 どのくらい時間が経ったのだろうか。どこからともなく鐘の音が遊園地に鳴り響いた。さっきまで楽しそうにしていた人たちは残念そうな顔をしている。
「さて……そろそろ帰る時間らしいな。短い時間だったが楽しめたかな?」
 サンタも残念そうだ。
「うん。すごく楽しかったよ! 何日もずっと遊んでいたみたいだった」
 翔はとても満足そうだ。
「子供の時間の感覚は、私たちからしたら羨ましい限りだな。あの門を出れば、伯父さんが君を待っているよ」
「サンタさん、今日はありがとうございました。また冒険しようね」
 翔は右手の小指を出した。サンタは笑顔でその約束に応えた。
「うん、いつかきっとしよう。私からも君にお願いがある」
「何?」
「大きくなっても、いくつになってもその笑顔を忘れないこと」
「うん! 約束ね」
 翔は笑顔で返した。そして、手を振りながら門から出ていく。みんなも翔に手を振る。
サンタも、トナカイも、王子様も、お姫様も……。
 翔が見えなくなるまで手を振り続けた。

「さて……今日はみんなありがとう。自由参加にも関わらず、こんなに集まってくれて。みんなの楽しんでいる姿を見れて、またよい刺激になったよ。今後とも自由な発想で楽しいものを創り出していってほしい」
 サンタが挨拶すると、みんなは拍手を送る。そして、みんなもそれぞれの場所へと戻っていく。

1 2 3 4