小説

『かごめかごめ』春野太郎(『座敷わらしのはなし』(岩手県遠野))

 子供たち皆が座ったところで。きぜわ気忙しそうに互いに不安げな顔を見せあっています。先までぐるぐるぐるぐると廻っていた頃と異なり、今はしっかりと自分を除く十人の顔が皆、それぞれ見えます。

ーどの顔もどの顔も見覚えがあるような…ー

 その時でした!
「こいつぅ~」と、子供たちは一斉にある子供を指差しました。
 背丈も着ている服も童子のようで。なるほど、ぐるぐると回っている間は、皆、気づきませんでしたが。いざ静止してみると、その子供の外貌は明らかに他の子供たちとは違います。 皮膚はうす青白く、皺は農夫のように刻まれ、その目は希望を失い、うつろです。
見た感じ、「大人こども」といった感じで少し奇異に映ります。背丈はなまじっか小学校四年生程度しかないので。踊っている際には、すっかり彼は子供たちのなかに溶け込んでいたのでした。しかし、今は違います。皆、冷静に十人の子供たちに見定められ、咎められ。その男は一斉に子供たちに名指しされました。
「お前。どこのどいつだぁ? 名をいってみろぉ!」
 子供たちを代表して。六年生の年長とおぼしき少年、太郎が鋭くそう、怒鳴りました。 続いて小学校にこの春、入学。皆に入り交じったばかりの一年生のななこ七子が泣き出しました。
「どうするんだ。どうするんだ?」
 子供たち皆はざわめき始めました、
「先生を呼ぼう!」
 誰かがこの時、かん高い声で叫びました。声変わりをまだしていない男の子の声です。しかし、辺りを見渡しても先生はおろか、他の大人も全くいる気配がなく。校庭には子供たちしかいません。
「くっくっくっ」と、この時、男はうづくまった姿勢でありながら、微かに声をあげていました。
 その声を聴いて子供たちの顔はさっと警戒感で強張りました。しかしよく観れば男は震えているようです。肩が上下に揺れています。
 子供たちは皆、怪訝に思いました。

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