小説

『ゴースト・シークレット』月照円陽(『葬られたる秘密』(京都))

 日没後、夢幻和尚がその家へ行くと、部屋は、和尚のための用意ができていた。
 和尚は、お経をあげながら、そこにただ一人坐っていた。午前一時過ぎまでは、なにも現れなかった。しかし、午前一時を過ぎると、美園の姿が急に箪笥の前に、いつとはなく輪郭を現した。その顔は、なにかが気になっているという様子で、両眼でじっと箪笥を見つめていた。
 和尚は、このような場合に誦するように定められている経文を口にして、その姿に向かって、美園の戒名を呼んで話しかけた。
「私は、あなたの助けをするために、ここに来ました。きっと、その箪笥の中には、あなたの心配になる、なにかが入っているのでしょう。あなたのために、私がそれを探し出してもよろしいかな?」
 影は、少し頭を動かした。承諾したらしい様子だった。
 そこで、和尚は立ち上がり、一番上の抽斗を開けてみた。だが、そこは空だった。続いて、和尚は、第二、第三、第四の抽斗を開けていく。抽斗の内部だけでなく、背後や下も気をつけて探したが、なにも見つからなかった。
 しかし、美園の姿は前と同じように、気にかかるといったように、抽斗をじっと見つめていた。
 ──さて、どうしたらいいというのだろうか?
 和尚は考えた。そして、当然ひらめいた。
 ──抽斗の中に張ってある紙の下に、なにか隠してあるのかもしれない。
 そこで、一番目の抽斗の貼り紙を剥がしたが、なにもない。
 第二、第三の抽斗の貼り紙を剥がしたが、それでもまだ、なにもない。
 一番下の抽斗の貼り紙の下に、なにかが見つかった。
 1TB(テラバイト)のmicrosd(マイクロエスディ)カードだった。
「あなたの心を悩ましていたものは、これかな?」と和尚は尋ねた。
 女の影は和尚の方を向いて、microsdカードを凝視していた。
「私が、これを捨てましょうか?」と和尚は尋ねた。
 美園の姿は、和尚に頭を下げた。
「今朝すぐに寺で、データを消去した上で、これを物理的にも破壊して、私のほかには、誰にもそのデータ内容を見せませんから」と和尚は約束した。美園の影は、微笑して、消えていった。

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