小説

『ゴースト・シークレット』月照円陽(『葬られたる秘密』(京都))

 和尚が階段を降りてきたとき、夜は明けかけており、一家の人々は心配して、下で待っていた。
「もう心配しなくても大丈夫です。影は二度と現れませんから」
 和尚は一家の人々に言った。
 そして、美園の影は、それ以来、現れなくなった。

 和尚が寺に帰り、自分のパソコンで、microsdカードのデータを見た。
 そこには、美園の日記、写真、動画が入っていた。美園の人生が詰まっているといってもいい代物だった。中には、あんなことやこんなことをしている写真や動画、他人の悪口や秘密、個人情報を書いた日記のページもあり、決して他人に見せられるものではなかった。
 ──こんな小さなものの中に、人一人の人生がほとんど詰まっている。しかも、私がその気になれば、すぐにSNSやクラウド上で公開・共有できてしまう。私は今からmicrosdカードのデータを削除するが、しかるべき人の手にかかれば、私のパソコンやmicrosdカード自体から、データが復元できてしまう。便利だけど、恐ろしい時代になったものだな。
 和尚は、microsdカード内のデータを消去した上で、microsdカード自体を物理的に破壊した。
 美園のmicrosdカードに入っていたデータの中身を知っているものは和尚だけであった。翌年、夢幻和尚は亡くなった。それと同時に、美園の秘密も葬りさられたかに思われた。

 夢幻和尚の使っていたパソコンは、データをすべて消去した上で、パソコンショップに売られた。そのパソコンショップの店員は、有名な夢幻和尚の使っていたパソコンということで、パソコン関連の知識を駆使して、こっそりとデータを復旧させた。そこには、美園のヤバイ写真や動画、日記も混じっていた。その店員は、中でもヤバイ動画をネットにアップした。
 その動画は、反響を呼んだ。
 しかし、動画をアップしたパソコンショップの店員は謎の急死を遂げた。
 また、動画を見た人たちも、次々と死んでいった。
 美園のその動画は、見たものは死んでしまう「呪いの動画」と呼ばれ、語り継がれるようになった。
 その動画は、削除されては、コピーされてを繰り返し、今でも、この広くて深いインターネット世界のどこかに、潜んでいるそうだ。

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