最後に二人残った。
「櫛名先輩」
藤村が僕を呼んだ。
「私を描いてください」
「なんで」
「先輩は、もっと生き物を描いた方がいい」
もう一度なんで、と言いかけた僕の言葉は喉を出なかった。
藤村が静電気を発している。見えない火花は周囲を攻撃しているのか彼女を守っているのか。彼女は黙って窓際の椅子に座った。僕はスケッチブックを手に取った。
僕は夕日に照らされた横顔の稜線を辿る。
「先輩は苛々する」
藤村が言葉を投げつけてくる。
「相手のことを見てない。分かろうとしない。視認、分析、仕分け。感情さえも」
「お前に俺のこと分かんの」
「同じタイプの人を知ってる」
「誰」
「先輩の知らない人」
「・・・」
話を変えた。
「お前、俺が嫌いならなんで描かせるの」
「記念」
「何の」
「何でも」
お手上げだ。僕は黙って描写に専念した。
「出来た」
紙に描かれたのは夕日を受けて座っている女子高生の形状。顎の長さで切り揃えられた黒髪と中位の鼻の高さと切長の瞳。
多分気に入らないんだろうなと思いながら見せると、藤村は無言でスケッチを破り取った。
「貰います」
「それでいいの」
「はい」
御礼も何も無い。そのまま部室を出ようとして、くるりと振り返った。
「夏休みの間に、キャンバスに油で仕上げて下さいね」
「だったらその絵が無いと」
「描けるでしょ、見てたんだから」