『たくさん食べて大きくなりましょう』
子どもじゃあるまいし、何を言っているんだ。と、思った和樹だったが、いや、待て。きっと、子どもだって来店するはずだから間違いではないとひとまず納得した。
扉は続く。エントランス、ロビー、次に待合室があっても、ここまではまあおかしなことではない。となれば、次こそいよいよレストランで間違いないはず。和樹はそう確信した。
しかし、違った。
同じような部屋の中央には、同じく黒いスタンドがある。美味しそうな料理の香りは一切感じない。まさかの展開だった。次は何と書いてあるのか。和樹は真っ直ぐにスタンドへと向かった。
『虫歯にならないよう、しっかりと歯磨きをしましょう』
まだ食事にさえありつけていないにも関わらず、食後の注意喚起である。和樹はさすがに苛立ちを覚え始めた。
恐らく、いや、かなりの確率で次の部屋も同じに違いない。和樹はそう考えると、少々荒々しく扉を開けた。
予感は的中した。説明の必要もなく同じ光景だった。和樹はスタンドの紙を確認せず、次の扉を開けて先へ進もうとした。店員に会って苦情を言ってやろうと思った。しかし、扉は開かなかった。今度は入ってきた扉から戻ろうと試みた。が、ビクともしない。
この何も無い室内では、スタンドの紙を確認するほかなかった。
『友達とは仲良くしましょうね』
もはやレストランとは一切関係の無い言葉だった。あーっと大声をあげ、頭を掻きむしりたいくらい、和樹には店側の意図が理解できなかった。しかし、とりあえず和樹はその気持ちを抑えた。それほど空腹というわけではなかったこと、そして、人生最期のときくらい、このくだらぬイベントに付き合ってやってもいいだろうと気持ちを切り替えたためである。
和樹はゆっくりと次の扉に歩みを進め、把手を握った。
開いた―
もちろん、同じ部屋だった。
『物には命が宿っているから、大切に扱おう』
気が付くと、和樹は微笑んでいた。次の部屋には何が書かれているか楽しみにさえ思う和樹がいた。はやる気持ちを抑えて、次の部屋へと進んだ。
『焦らず、ゆっくり前を向いて進みましょう』