誰にでも経験したことのあるような思春期と呼ばれるころの出来事かもしれないけれど。
映画を観た時は自分以外の誰かを見ているから解放された気分になる。でもそれは錯覚だよなって思っていたら、ドアの外で音がした。
ふと開けてみるとそこには、靴が置いてあった。
靴の中には手紙が入っている。
その手紙の主は、コンビニでバイトしている灯りちゃんだった。深夜のコンビニだけには今は歩いて行けるのだ。夜の闇の中にいると、すこしだけ自由を感じる。サンダル履きでコンビニに行く。
あなた、コモリの人?って灯りちゃんがたずねてきたことがあった。
なぜか灯りちゃんとは喋れるのだ。同じ匂いがするっていうか、たぶん灯りちゃんも過去こもりのことがあったんだろうと、推測していたら、ずぼしだった。
灯りちゃんは、ぼくの住んでるアパートの前に靴を置いてゆくようになった。
一度だけあのバカなカウンセラーに言われたことを打ち明けたことがあって。
新しい靴を履けば、街に出れるようになるよって言うんだよバカだろうそいつって言ったら、灯りちゃんは案外そんなもんかもしれないよって笑った。
あてずっぽうに靴屋で新しいけど安い靴を買ってはぼくのアパートの前に置いて行った。
これは灯りちゃんからの手紙なのだと思ってだまっておいてゆく靴を玄関までもってゆくと足に入れてみる。
きっつ~ってなったけど、ぼくは灯りちゃんのその想いにちょっとだけ心を開きたくなっていた。
ブランドとかはわからない。たぶん安い靴だからブランドとかないんだろうけど。
あのステイホームはもう終わろうとしていた。
ステイホームが終わるってどういうことだ。ぼくはずっとステイホームした人生だったからなにも日常は変わらなかった。変化なんてぼくには訪れなかった。世界中が病の中に取り囲まれていた時もそれ以前もぼくはなにひとつ変わらず。変わったことと言えば、ぼくはひとつだけ灯りちゃんからのあの靴が届くのを待つようになっていたことだった。
まどべから外を見ていた。
男の子たちが、なにか話しながら帰ってゆく。話しながら帰ってゆくって、もうその景色だけで十分憧れのようだ。彼らの姿は見ないようにした。昔も小学生に冷やかされてこまったことがあったから。
ひきこもりですか? って言われたことがあったのだ。
彼らの声を聞く。
ひとりの男の子が、「いつのじだいにいってみたい?」って、
おなじみの問いかけをした。
そういう声が聞こえてきたのでそこらへんにあるペンでもって宅急便で受け取った商品の受注番号などが書いてある用紙を裏向けて白紙の場所に書き留めた。