小説

『恋するオハナ』はやくもよいち(『とりかへばや物語』)

戸惑いながらも、俺は自分とオハナとの関係を話した。

高校の卒業前に思いきって告白したこと。
毎週のようにデートしていること。
彼女の口から天狗の話など聞いたこともないこと。
思いつくことを片っ端から喋って、俺は胸を張った。
「14歳といえば4年前、中2の頃だろ」

天狗は、「はあ」と息をつき、天を仰いだ。
「ほんの束の間だと思っていたが……時の経つのは早いものだな。イッセイ、頼みがある。その娘をここへ呼び出してはくれまいか。ひと目なりとも、オハナを見たいのだ」

頭の上で手を合わせ、「たのむ、たのむ」と繰り返した。

どうして頼みごとを聞く気になったのかは、自分でも分からない。
俺はアームバンドから携帯電話を取り出して、メッセージを打った。
「天狗がオハナに会いたがっている」

事実だけを告げた。
妖怪の口にした「約束」など、信じてはいない。
ただ一心にこちらを拝む姿は、胸に迫った。
人間なら100歳を超えているほどの年寄りが、18歳の俺に頭を下げている。
それだけ必死なんだ、と理解した。
たとえ騙されたとしても。俺は構わない。
オハナに心当たりがなければ、既読無視するだろう。
下らないジョークだと、笑いとばすかもしれない。
それで済む話だ。

彼女はまだ寝ているだろうと思ったが、すぐに返信があった。
「急いで行く。ボートハウスの前で待ってて」と書かれている。

俺は何よりも、彼女の返事に驚いた。
「オハナの家はすぐ近くだから、15分ほどで来るだろう」

そう伝えると、天狗は甲羅の上に立ち上がった。
「おぬしはやはり、よい男だ。イッセイ、すまぬ。どうか許してくれ」

なんのことだ、と尋ねる暇もない。
俺の顔に向けて、天狗が広げた手のひらを突き出す。
めまいが襲ってきた。

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