小説

『トゲトトゲ』平大典(『一寸法師』『いばら姫』)

 咲は正直者だ。
 わたしたちは裁縫部に所属している。
 といっても、わたしはいつも咲の隣で、話しているだけだ。冬になったら、編み物をやるくらいだ。
「いい人だし」
 わたしはワンピースの袖を指先でいじっている。咲は真冬だというのに、集中しているのか、ブレザーを脱いで腕まくりまでしていた。
「……自分のガッコの娘とも」咲は指元から視線を外さず、テキパキと運針していく。「ラインやってるって聞いたことあるけど」
「そんなこと無いと思う。」
咲は、やっと顔を上げて、こちらを見つめた。
「ま、一年も付き合ったんだから」
 言い終えると、裁縫を再開した。
 咲にはカレシがいない。いたこともない。
 女子校ではカレシがいる人間の方が希少な人種だ。
 出会いがないわけでないのに。
 咲は真剣な面持ちで、手を休めない。
 わたしに嫉妬しているのか。
 言えるわけがないが。
「いた」
咲がつぶやいた。
「だいじょうぶ?」
 顔をゆがめている咲は、指先をじぃっと見つめていた。
 赤い血が玉になって指先に溜まっていた。
 私はちり紙で拭きとってあげた。白くてやわらかいちり紙に赤い血がじゅんと染み込む。それだけのことで、痛みを私も感じる。
 傷跡は小さな穴だった。少しすると、そこからまた血があふれてくる。
 机に戻してある指先を刺した銀色の針を睨む。
 こんなちっぽけな針で。

 
 ***

 
 わたしたちは、帰り道にマックへ寄った。
 夕暮れ時、似たような人、他校の人らも店内にたくさんいる。
 レジに並び、メニューを睨む。

1 2 3 4