小説

『爺捨山』鹿目勘六(『楢山節考』)

「専門員達は、現地まで来て土器片を採取して矯めつ眇めつ見ていた。そして言ったんだ。黒い方は、縄文時代の中期頃、大凡今から五千年前に作られた物。そして赤い方は、弥生時代の後期、一世紀頃に作られた物。つまり、この地域には、狩猟採集の時代から人が住んでいた。今、町場になっている地域よりズット古くから人が住んでいた。掘って本格的に調べればもっと古い時代の遺物もでるかもしれない、と言うんだ」
 そして美味そうに酒を一気に飲み干した。
「それは凄いな」
 義男も思わず身を乗り出している。
「痛快な話だべ。町場の連中に一泡ふかしてやった。なにしろ高校では、何かに付けて俺達郡部の者を見下していだからな。そして、ある日の歴史の授業で昔の貧しさを説明するのに、先公が、楢山節考の話をしたことがあってな。山間部の村人が、貧しさの故に老いた母親を山に捨てに行った、と残酷な風習のことを言ったら、級友が薄笑いを浮かべて一斉に俺の方を見たのさ」
 恵一は、憮然とした表情で酒を煽った。
「俺達の村では、今でもやっているだろう、と言う顔付でな。それで俺は、そんな作り話を歴史の授業でするのは止めてくれ、と思わず叫んでた。その権幕に先公は、言葉を濁しながら謝ったが、怒り心頭に達していた俺は、町場より郡部が貧しかったと言う証拠があるのか。そもそも貧しい事は、卑下されることなのか、と捲し立てた」
 恵一の顔は、酒の酔いと怒りで真赤だ。
 その話を聞きながら義男は、同じ怒りを恵一から投げつけられたことを思い出した。通っている高校は違ったが、二人は何でも話し合う仲だった。
「その憤懣を義ちゃんにぶつけたたんだ。そしたら義ちゃんは、恵ちゃんの言う通りだ、と慰めてくれた。郡部に住む俺達の方が町場の人より親と地域を大事に生きている。それは先祖の人達が、そうしたからだ。だから姥捨てなんて単なる作り話に過ぎない、と断言したんだ。俺は、義ちゃんの話を聞いて胸の閊えが降りた。さすが義ちゃんは、頭が良いと感心したよ」
 顔をほころばせながら、恵一は義男に酒を注いだ。
「恵ちゃんの方が、先生と級友達を相手にして正論を述べたんだから、俺なんかより数段すごいよ」

 酒の上の話であったが、義男は、次の日に町まで行ったついで楢山節考の本を図書館から借りて来りて読んで見た。
 昭和31年に書かれた、その小説には、信州のある村では、七十歳になると老人は、口減らしのために山に捨てられる。老女「おりん」は、むしろ進んで息子「辰平」の背板に負われて山奥の楢山へ捨てられに行くが、母を捨てることに忍びない息子との親子の情が淡々と書かれていた。
 昔、恵一から初めて聞いた時には、母親を捨てなければならない山村の厳しい生活に愕然として、それは作り話にすぎないと思った。

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