小説

『祖父、帰る』斉藤高谷(『浦島太郎』)

 俺は溜息を吐き、駅を後にする。家に帰る途中、コンビニの袋を提げた佐々木と会った。
「あれ、家出はもう終わり?」
「うるさい」早足で振り切ろうとしたが、彼女の差し出してきた棒付きアイスの誘惑に負けた。
「まあ、また今度でいいんじゃない?」アイスをくわえた佐々木は言う。
 そうかもしれない。アイスを舐めながら、ぼんやり思う。もう一度親父と話てみようか、とも。とりあえず、出て行くのは今日ではないのかもしれない。
 道すがら、両親に説明するためのタイとヒラメの出所を考える。しかし家に帰ると、魚は既に親父の手で捌かれた後だった。夕飯に並んだ刺身が家族に平らげられると、祖父が帰って来た痕跡は完全になくなった。

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