小説

『エンドレスなメロス』もりまりこ(『走れメロス』)

 うんうん。俺といっしょやんって声を出さずに耳を傾ける。
「後ろで待っている相方の人はひどいよね、俺信頼されてない?って笑っていましたけど。その時の彼の眼は憶えてるんです。そうじゃないよって言いながらも、なかなか、身体で応えることができませんでした。だから、ディオニス様だけじゃないはずです。人を信じられないひとは王様以外にも少なくとも、ぼくひとりはいますよ」
 俺はなんか労われたせつな、ますますセリちゃんすっきゃわってこみ上げた。
「でもね、メロスは違ったんですよ。すぐにばたんと背中を預けられる。恐れをしらない男です。そういう所、ちょっとまぶしかった。でも僕にはできなかったっていう話です。だから、せんえつですが王様のそういうふるまい気になさ
らないでいいですよ」
 俺はセリちゃんに三日三晩なぐさめられて、日々を過ごした。
 んで、メロスはちゃんと帰ってきよった。なんかしらんけど素っ裸で。満月が少し欠けた月の下で見るメロスの身体は、めっちゃまっちょやった。
 そしたら、それがえらい街の噂になってしもて。駅伝の復路を走り抜けた時の1月3日の大手町の午後みたいな感じになってて。裸のランナーメロスは、素敵ってなもんで。命かけて走ったあんたはエライ、おまけに友達も守り、離ればなれの妹レロスの結婚も見届けた、とても信頼できる。メロスこそが王にふさわしい!いうことで、俺は罷免された。お役御免いうことやん。それはそれで、別にかまへんねん。どうせおれは指定生存者やいうだけやし。まぁ阿弥陀で決まったみたいなもんやしね。
 で、就任式みたいなもんがあって、メロス王が誕生した途端や。
 メロスは俺の人を信じられへんこころが気に入らんっていうて。じぶんを信じられない者は他人をも信じない。そんなもんを、われは側近に選べぬとかなんとかぬかしやがって。ほんでまたセリちゃん人質にとって、3日で遊行寺超えて箱根回って戻ってこいいうてん。なんでやねん!
 なんでなんで。で、あいつの眼をみたらこれはほんまにセリちゃんころしてしまうんやないかいうような眼をしてて。止められへんかった。正義ってなんや。誰にとっての正義やねんって食って掛かったけど、却下されて。

 で、メロスやなくて元、ディオニスである俺が走ってる。
 だから、ディオニスは激怒してたん。
 メロスは人を信じすぎて、信じられへん人がいるなんて信じられへんようになってて、それって信じられへんひとがいるいうことを、信じてないいうことちゃうの? って息きらしながら考えててん。いまここにメロスいたらそう言っ
たったのに。おらへんからめっちゃ腹立ってきて。怒ってんねん、俺。
 そしたら、目の前にな門脇御籤さんの新作展やってるやんか。しゅって、自動ドアの前にたったらドアが開くから、それはしゃーないな見て行こう思って、見てたら、天女みたいな天使がいっぱいふわふわ描かれてて。それはまるで俺がかつて当番制の王やってた時にみてた夢とまったくおんなじで。門脇さんはついに俺の夢の中に入りはったんか思ったけど、そうやない。みんな夢なんて似たりよったりのものみてるんやて。
 みんな、それぞれ違うゆめをみてるとかって思いすぎやと思うわ。

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