小説

『ブルーベルベット』義若ユウスケ&かいかなみ(『スーホの白い馬』)

 カウボーイはビューンとゴムボールのように宙をぶっとんで遠くの窓をつきやぶり、店外へ落っこちた。
 ブラボー! さすがは花子。わがガールフレンドながらあっぱれだ。
 モクモクと店内にホコリが舞う。
 馬はそんなことなどおかまいなしという風によだれをたらしながらぼくの食べかけのオムライスを見つめている。
 オムライスが狙われてる、助けてくれ! とおもって花子をみると、彼女はいつのまにか席をはなれて近くのテーブルをふいていた男性店員をつかまえて新しいハンバーグをもらえないかとたのんでいるところだった。
 とつぜん烈火のごとく、ぼくは燃えあがった。花子がぼく以外の男と口をきいている!
 ぼくはダッとかけだして男性店員に必殺のラリアットをくらわせた。そいつで一発KOだった。男性店員はズバーン! とダーツのように頭から床に突き刺さり、もう、ピクリとも動かなかった。
「ちょっと、どうしたってのよ」と花子がいった。
「どうして君はそうやっていつもいつもぼくの心をかきみだすんだ。ぼくの見ている前でほかの男と親しげに話すなんて!」
「ハンバーグを注文してただけじゃない」
「うるさいうるさい!」
 ぼくは思いっきり床をけりつけた。
「もう、怒りんぼなんだから」花子があきれた顔をする。「ねえ、気分転換にデザートでも食べに行きましょう」と彼女はいった。
 あ、いいね、とぼくは思った。だから、「あ、いいね」とぼくはいった。
 すると、馬も行きたいのかこちらをむいて、「ヒヒーン」と鳴いた。口のまわりにはケチャップがついている。みると、ぼくのオムライスは完全に消滅していた。
 ぼくらは馬にとび乗った。花子が前で、ぼくがうしろだ。
「さあ行けポンポコサンダー!」といって花子が馬の横腹をける。
 馬が走りだす。猛ダッシュだ。
 さきほどカウボーイが落っこちた窓のひとつとなりの窓をパリーンとつきやぶってぼくらはファミリーレストランをとびだした。外にカウボーイの姿はなかった。彼はどこに行ったのだろう。まあいいか。彼には彼の人生がある。それは、ぼくにはまったく関わりのないことなのだ。人は勝手に生きる。ぼくだってそうだ。
「ハイヤー! ゴー、ポンポコサンダー!」と花子がいう。
「ポンポコサンダーってなに?」とぼくはきく。
「この馬の名前よ!」と彼女はこたえる。

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