小説

『点滅する夜』森な子【「20」にまつわる物語】

 真夜中、人も車も通らない静まり返った交差点で、それでもしっかりと点滅し続ける信号機を眺めるのが好きだ。大袈裟のように聞こえるかもしれないが、その規則正しさを眺めていると、命を救われたような気持ちになる。
 十九歳最後の夜も信号機の点滅を眺めながら過ごした。赤、黄、青の三色が順番に光っては消えていく。そんな光景をぼんやりと眺めながら、私は二十歳を迎えた。腕時計を確認して、あ、日付変わってる、と呟いた自分の声が、やけに大きく響いていた。
 赤いエナメルのハイヒールをこつん、こつん、と鳴らしながら、誰もいない道をふらふらと歩く。見上げた夜空にはオリオン座と、その左下にシリウスがくっきりと光って見えた。指で線をひくように星たちをつなぎ合わせる。すると、指先から一筋の光が走っていった。夜間飛行だ。ちかちかとランプを点滅させながら、星々の間を縫うように走って消えてゆく。
 ついに二十歳になったか、とぼんやり考えながら、空に掲げた手のひらを降ろした。あーあ、とため息をついてから顔を上げると、三十メートルほど先に煌々と光る建物が見えた。UFOみたい。よし、あのUFOでお酒を買ってみよう。こつん、こつんと足音を鳴らしながら、私はお酒と、あと食べ物とか日用品なんかも買えるUFOに近づいた。
「あれ?ミライじゃん」
 建物のなかに入ると見知った顔がモップを片手に話しかけてきた。働き口の少ない田舎のコンビニで、同級生がアルバイトをしているなんて珍しい光景では全然無いが、それでもその時の私は心底びっくりして、持っていた財布を手から落とした。
 真夜中に出歩いて知り合いと偶然会うなんて微塵も考えたことがなかった。夜の静寂のなかを歩く人たちの顔は異世界の住人のように見えるし、いつもの自分なら寝ているような時間に知り合いが起きて働いているなんて、なんだか不思議な感じだ。
 けれど目の前にいる人物は気立てのよさそうな笑顔で「どうしたの、こんな時間に」と話しかけてきた。なんなら落とした財布まで拾ってくれた。私はすぐにハッと気を取り戻して「散歩していたの」と返事をかえした。
「危ないよ、こんな夜中に出歩くなんて。早く帰りなさい」
 その優しい命令口調が妙に懐かしく思えて、私は思わずふふふと笑ってしまった。中島さん。それがこの、青い制服を着た世話焼きの彼女の名前で、私は中学時代、優しい彼女になにかとお世話になった。
「中島さんはここでアルバイトをしているの?」
「うん、そうよ。大学の授業の合間に。夜勤だと時給がいいからね。ミライは今、なにしているの?」
「私、今なにもしてないの。たまに短期のアルバイトでお小遣いを稼ぐくらい。毎日映画見たり、本読んだり、散歩したりしてる」
「ミライらしいなあ。のんびりしていていいね」

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