小説

『点滅する夜』森な子【「20」にまつわる物語】

「そっか。じゃあ私はシャンディガフ頼むから、ミライはビールにしよう。それで、無理そうだったら交換してあげる」
「わかった、ありがとう。シャンディガフってなに?」
「優しい味のビールみたいなもの」
 言い終わると同時に、中島さんは呼び出しボタンを押して、慣れた様子で店員さんに注文をした。お酒はすぐに出てきた。グラスまでもが冷えていて、持ち手を掴んだ時に驚いた。
「成人おめでとう、かんぱい!」
「ありがとう、かんぱい!」
 はじめてビールを口にふくんで、間髪入れずにむせ返った。苦い。苦すぎる。わけがわからなくなって中島さんのほうを見ると、やっぱり、という顔をして苦笑していた。
「はじめからビール飲める人ってあんまりいないと思うなあ。私も飲めるようになったの最近だし。ほら、交換しよう。こっちは飲みやすいよ」
「うん、ありがとう……大人はみんなこんなものを喜んで飲んでるんだね……」
「こんなものって」
 中島さんはやっぱり笑いながら、ごくごくと美味しそうにビールを飲んだ。不思議だ。舌の構造が私とまったく違うのかもしれない。
「ミライが二十歳かあ……。あのね、私、こんなこと言うと失礼になっちゃうかもしれないけれど、ミライは大人にならないんじゃないかって思ってた」
「全然失礼じゃないよ。私もね、そう思ってた」
「やっぱり?」
「あのね、中島さん、お礼を言いたいことがあるの。中学生の時、私の話を笑わないで聞いてくれてありがとう。私の言うことをちゃんと聞いてくれる人って、一年生の時の担任の西村先生か、中島さんか、お隣のおばあちゃんくらいだったから、すごく嬉しかったわ」
「え、なによ、急に」
「今日中島さんに偶然会えたのは、きっと神様がお礼を言うために場を設けてくれたんだと思う。本当にそれくらい、感謝しているの」
 中島さんはきょとんとした顔をしながら、それでも少し照れたように「そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しいな」と笑った。
「私、卒業してからもずっとあなたのこと心配だったのよ、ミライ。覚えてる?あなた、二年生の冬に急に学校へ来なくなって、私がお見舞いに行ったとき、泣きながらこういったの。『私、外に出ると、陽の光が眩しくて、驚いてしまうし、コートを着ると、肩のあたりに鉛でも乗せられたみたいに体が重たくて、座り込んでしまう。それに、マフラーを巻くと、首元が苦しくて、呼吸が上手にできなくて、吐きそうになってしまう。だから私、外に出ることができない。外に出るのが怖いの。』」

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