小説

『youth』村崎えん【「20」にまつわる物語】

 いい年してピンクなんて、よくもまあ恥ずかしげもなく。
 皿の上の小さなタコにフォークを突き立てながら、茉奈美は胸のうちで呟いた。そして同時にギョッとする。ごく自然に湧いた言葉が、親友を祝うものではなかったことに。
 淡いピンク色の花に囲まれながら、その花と同じ色のドレスを纏って、明香里は幸福そうに笑っている。女ばかりのグループと男ばかりのグループが、入れ代わり立ち代わりで明香里の周り取り囲み、酔った顔でカメラマンにスマートフォンを渡しているのが見える。どのグループも揃いもそろってピースサインばっかり。山のように写真を撮っても、全部ピース。あの写真、どうするつもりだろう。皆、嬉しそうにSNSにアップしたりするんだろうか。一体だれのために。誰が見て、誰が喜ぶんだろうか。
「私、結婚式とか正気の沙汰じゃないと思う」
 耳元で声が聞こえて、茉奈美は思わずふり返った。しかし、そこに声の主の姿はない。当たり前だ。あれは、明香里の声だった。二十年前の、まだ高校生だった、明香里の声だった。
 ペットボトルを再利用して作られたことをウリにしていたブレザーとプリーツスカート、赤いリボン。ヘムのボストンバッグを肩から提げて、十六歳の明香里がそこで笑っていてくれる。そんな馬鹿げた己の願望に、茉奈美は「は」と短く笑った。いるはずがないのだ。だってもう、いないんだから。同じ人間だなんて信じられない。つまらない毎日に絶望し、誰かの悪口を楽しそうにしていた女の子。それがどうしたら、ピンクのドレスで笑顔の仮面を被っている女へと変貌を遂げるのか。
 すぐそこにいるのに、茉奈美には明香里が地球の裏側にいるほど遠く感じられた。地球の裏側、という距離と、二十年、という時間。果たしてどちらが遠いのか、わからないけれど。
「宇宙のこと考えてみなよ。そしたらどうでもよくなるからさ」
 また声がする。
 いつか明香里が言った言葉。まだ、昨日のことみたいに思い出せるのに。くだらない話も姉妹みたいな言い合いも、些末な悩みも贅沢な若さも、全部がすぐそこにある気がする。なのにもう、二十年だ。

 
 高校に入学してすぐの頃、茉奈美には友達ができなかった。
 同じ中学に通っていた顔見知りたちはとは見事にクラスが別れ、教室には茉奈美の知らない顔ばかりが並んでいた。当然のように、同じ中学の者同士が固まってグループを形成しており、今後それは形を変えてはいくのだろうが、基本形はこれで固まりましたのでという雰囲気が教室に充満していた。グループ同士なら、近づいたり離れたりが楽だろう。だけど独りとなると、どうにもこうにもうまくいかないものである。茉奈美は本当に、独りぼっちだった。
 私の居場所はここじゃない。
 だけど、茉奈美はそう考えていた。そうやって心を保っていた。本当は地元で一番の進学校であるI高校を志望していたのだ。だけど数学がからっきしダメで、泣く泣くレベルを下げてこの高校を受験したのだった。
「数学を死ぬ気でやってみろ」

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