小説

『拝啓 佐伯先輩殿』戸上右亮

「佐伯先輩が、四時にサイトウ来いってよ……」
 あれは中学生最後の夏休みが終わって、ひと月ほどが過ぎたある日のこと。オガから告げられたその言葉に、僕とタキは凍りついた。どうやらオガとタキ、そして僕の三人は、三年の代表として「駄菓子のサイトウ」に呼び出されているらしいのだ。
 よりによって、あの佐伯先輩に、である。
 気合の入った不良揃いで「黄金世代」と呼ばれた僕らの二コ上世代。その中でも、特に恐れられていた先輩がいた。中学生のくせに原付で登校するくらいは当たり前、トイレどころか教室でも煙草をふかし、気に入らない教師がいれば車のフロントガラスに金属バットをお見舞いする。とにかくアナーキーでキレたら何をしでかすか分からないため、「狂犬」の呼び名をほしいままにした男。それが佐伯先輩だ。
 先輩が僕ら三人を「代表」として指名したのは、もちろん教師たちに歓迎されないタイプの生徒であることが理由だったのだが、実のところ僕らはそれほどの悪童でもなかった。同じ学校でも学年によってそれぞれカラーが違うもので、僕らの代では「黄金世代」の張り詰めた空気感は既に失われていたのだ。それなりにやんちゃはしていたものの、法に触れるような危険行為に手を染めることはほとんどなく、女子のブラジャーのホックをブレザーの上から上手に外して怒らせてみたり、コンドームを膨らませて廊下でバレーボールをして遊んでみたりと、エロよりの無害な悪行ばかりに勤しむLOVE&PEACEな世代だったのである。
 もちろん、ヤンキー漫画の主人公のような目力強めの不良に憧れる気持ちがない訳ではなかったし、そうなろうと努力したこともあった。しかし、残念ながら僕らには相撲部屋の親方みたいな体育教師たちに真っ向から歯向かう根性はなく、学校内で派手に暴れることはできなかった。かと言って、学校の外に出たところでゲーセンもファミレスもコンビニもない小さな田舎町では、悪ぶるにも限りがあった。学校をサボってみても溜まり場にする娯楽施設はなく、ゲームセンターや喫茶店でたむろすることができない。鏡の前で一生懸命メンチを切る練習をしても、見慣れた顔しかいないので喧嘩になることもない。
 悪ぶれど、悪ぶれど、我が暮らしバイオレントにならざり。
 仕方がないのでボンタンにリーゼントという出で立ちのくせに近所の川でフナやハヤを釣ってばかりいる始末で、せっかく習得した強めの目力も実戦で発揮する機会はまるでなかった。
 そんな僕らにとって、この近隣で唯一の暴走族である「暴力菩薩」の特攻隊長を務める佐伯先輩は、正に不良界のエリートであり、ほとんど雲の上のような存在であった。
「半年で高校中退したらしいぜ? ヤベーよ」
「独りで七人シメたらしいぜ? ヤベーよ」
「傷害でカンベツ入ったらしいぜ? ヤベーよ」

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