小説

『20』月山

 時計が20時を指している。
 少しのつもりで昼寝したのに、もう夜なのか。また貴重な休日をつぶした。仕事中には週末あれをしようこれをしようと考えていたのにいやちょっと待て。
 もう一度時計を見た。
 針が20を指している。
 文字盤に20の文字がある。
 なんだこれ。12と1の間にぽんと置かれた20。昨日まで、いや昼寝の直前までこんなものはなかった。それからもう一つ気付く。まだ明るい。昼に寝た俺は部屋の灯りをつけてなどいなく、でも20時にしてはやけに明るい、時計の数字だってよく見える。
 時計だけがおかしく、実際にはまだ昼なんだろう。
 そもそも時計がどうしておかしいのかもわからないまま、スマホを見て正確な時刻を見ようと思ったのは多分、現実逃避だ。時計はおそらく誰かのイタズラなんだろう、無駄に手の込んだ――でもこんな事やりそうな人物がただの一人も思いつかない。こわい。
 さてスマホは俺に20時20分だと教えてくれた。
 窓の外を見る。明るい。
 TVをつけてみる。右下に表示される20:20。画面の中でニュースキャスターは言う。
「お昼になりました」
 何時だよ。
 いやほんとになんなんだこれ。ドッキリか? こんなに手が込んでいて、かつ地味な? TVからはニュースが流れている。どこかの町で赤ん坊が誕生したという心温まる話。
「20つ子ということで近所の住人からも驚きの声が」
 すごいよお母さん。どうやって産んだんだよ。どうやって入ってたんだよお腹の中に。
 フェイクニュースかなあ、今日エイプリルフールじゃない筈なんだけどなあ。
 ……水でも飲もう。
 小さなキッチンのシンク。びっしりと密集する20個の蛇口。あああああこわいこわいこわい。なにこれ。よしわかった。外に出よう。逃げよう。
 とりあえず近くのコンビニへでも駆け込もうかと思ったけど財布を持たずに出てきてしまった。戻るのは何か嫌だなあ。立ち読みでもしていればいいか。道を歩く。向こうの方に猫がいる。しっぽがたくさん。多分20本。猫又というやつかな? 方向転換。あっちの公園を散歩することにしよう。子供が歩いてくる。20個ほどの風船を持っている。いやいや大丈夫だ。あれは単に風船をたくさん持っているだけの普通の子供だ。風船が大好きなんだろう。そうだこの路地を通ると本屋への近道なんだよな。行ってみよう、好きな作家さんの新刊が出ているかもしれないからな。財布持ってないけど。
「あれ、何してんの?」

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