小説

『神、再び来たりて』十六夜博士(『ヤマタノオロチ』)

 今になって、体のあちこちが痛む。恐らく、あばらの2、3本は折れてるだろう。
 ハァ、ハァ、ハァ……
 乱れた呼吸がなかなか整わない。
 すると、優しい抱擁が背中からやってきた。
(えっ……)
「ありがとうございました……」
 クシナダちゃんのカナリアのような声が、感謝の言葉をさえずった。
(おっと、そうくるか……)
 俺は大胆なクシナダちゃんの行動に驚きつつも、ボロボロで血まみれの俺の背中に頬をよせるクシナダちゃんが愛しかった。
(クシナダちゃん、俺にゾッコンだな。っていうか、俺もゾッコン……)
 俺は、感じたことのない充実感に満たされていた。
(ここには俺のやることがある!)
 俺は、草薙剣を、コロニーが漂っているであろう天空に向け、高々と突き上げた。
「俺は地球に新しい世界を作る!」

☆☆☆

「では、これにてオリンポスの最終会議を終了し、オリンポスの解散を宣言する」
 オリンポスの議長であるゼウスの声が会議室に響いた。
 各コロニーの代表は席から立ちあがると、三々五々、互いに挨拶をしたり、握手をしたりしながら、会議室を後にしていく。
 3万年もの間、コロニー群を管理してきたオリンポスは今日で解散となった。コロニー・Jから選出された初代特派員・スサノオから報告される地球の状況から、コロニーで生活する人々が地球に帰還できることがわかったからだ。今後、各コロニーの人々は先祖が住んでいた地球上の各地域に移住を開始する。
「我々の悲願である地球帰還が果たせるのも、イザナギ殿の身を切るような英断と、ご子息スサノオくんのご活躍によるものです。感謝いたします」
 ゼウスは、コロニー・J代表のイザナギに声をかけた。
「いえ、とんでもない。我々も光栄ですよ。ジェネシスに貢献できましてな。まあ、でも本番はこれからです。残留地球人との共生をうまくやることが重要ですな」
 イザナギは応えた。
「いかにも。残留地球人は我々を神と思うだろう。だが、根っこは一緒だ。むしろ、我々は旧人類で、向こうが新人類だ。あまり我々の文明の力を見せつけて、神だ、神だと我々を神格化しては、うまくいかないでしょうな」
 ゼウスの言葉にちょっとした皮肉が含まれていることを、イザナギは感じた。
「そうですな。我が息子のスサノオも、ちょっといい気になって、自分の国を創るなんて息巻いている。ちょっとお灸を据えておきます」

1 2 3 4 5 6 7 8