小説

『神、再び来たりて』十六夜博士(『ヤマタノオロチ』)

「あなた、神様では、ないですか?」
 地球の自然の素晴らしさに浸っていた俺に、何者かが話しかけてきた。俺は、声のする方角に振り返る。目の前には、長く探し求めたものを見つけたような驚きとともに、俺を見つめる初老の男がいた。口を半開きにし、伸ばした手が震えている。
(人間、いるじゃないか。生き延びたんだな……)
 俺は少しホッとした。
 コロニーに移住出来なかった人間の末裔に違いなかった。
 もう一つ俺を驚かしたのは、コミュニケーション・デバイスだ。いきなり地球人の言語を翻訳できるとは、こいつを開発したやつは、天才だなと思った。さらに、俺の喋る言葉は、このコミュニケーション・デバイスから、あたかも俺が現地語を話したかのように相手の脳に直接伝わるだろう。地球人にとっては、俺たちがテレパシーを操っているように感じるだろう。
 神様と呼ばれ気を良くした俺は、「神様と言えば、神様だ。よろしく頼む」と初老の男に応えた。
(なんか俺、カッコいいかも)
 俺は自己満足に浸った。
 初老の男は、おおっと感嘆の声をあげると、「やはり、神様でしたか!」と言いながら駆け寄り、俺の手を握った。そして、長年待ち続けた救世主を前に、全身全霊で願いを訴えるような表情で、俺を見つめた。
「娘を助けてくれませんか?」

 詳しく話を聞くと、こういうことだった。
 この界隈には、ヤマタノオロチという巨大な化物がいて、毎年、娘を食べに来る。ヤマタノオロチは、8つの頭があり、毎年その頭のどれか一つが、娘を一人食べるらしい。初老の男には8人の娘がいたが、7人の娘は、既に食べられたとのことだった。そして、明日、最後の末娘をヤマタノオロチが食べに来ると言うのだ。
 大昔、恐竜という怪物が地球にはいたと、俺は学校で習った。そいつらは絶滅したと習ったが、この3万年の間に、地球は新たな化物を生み出したようだ。放射能に侵された数万年の年月の中で、DNA変異を起こした生物が新たな進化をしてもおかしくない。
 一通り事情を話し終えた初老の男は、「どうか、神様、お助けくださいませ」と、両の手を合わせ懇願した。
「お父様!」
 その時、カナリアのような美しい声がした。俺と初老の男は、声の方に顔を向ける。
 衝撃が俺を貫いた。
(お、おいっ……なっ、なんだ、あの美人ちゃんは!?)
 俺は、安っぽいドラマで良くあるように、目をゴシゴシと擦り、もう一度、美人ちゃんを確認する。
(うわぁー、まじ綺麗だし……まじタイプだし……)

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