小説

『神、再び来たりて』十六夜博士(『ヤマタノオロチ』)

 それが、地球帰還プロジェクト『ジェネシス』だ。
 アマテラス姉さんの話では、俺らの住むコロニー・J代表で、『オリンポス』の幹部である父が俺を推挙し、それが認められたとのことだった。
 放射能の影響は調べられていたが、地球がどのような状況か、それ程詳しく調べられていない。そんなところへ送り込まれる初代特派員だ。命知らずな者でなければ務まらない。そういう意味で、俺はぴったりだと思うが、親父からしたら、女遊びと喧嘩に明け暮れ、名家の面汚しとも言える放蕩息子の俺を、体良く下界に追放しようって腹だろう。だが、俺は不思議と腹が立っていなかった。むしろ、3万年間、誰も降りてない地球に、いの一番に行かれるっていう話にワクワクしていた。
(コロニーは俺にとって狭すぎる)
 俺は常日頃そう思っていた。だから、強い相手を見つけて、腕試しするぐらいしかすることがない。
「厄介者の俺がいなくなって、親父も姉貴も清々するな」
 俺は苦笑いしながら、姉貴を見つめた。
「……」
 姉貴はそれには答えず、ニヤリと笑った。
「どう思ってもいいわ。まあ、頑張りなさいよ。初代特派員に選ばれたのは、光栄なことでもある。コロニー・Jとお父様に恥をかかせないでね。じゃあ、気をつけて」
 言いたいことを言うと、姉貴のホログラムはスッと、幽霊がいなくなるように消えた。
「何が気をつけてだ」
 ニヤリとしながら、俺は独り呟いた。

「ここが地球か……」
 俺は、降下用カプセルから出てくると、鬱蒼と茂る木々を見上げた。コロニーで、『外に出る』というと必ず宇宙服を着る。宇宙服を着ないで外に出ることは、コロニーではあり得ないことだ。もちろん、コロニーの外は真空の宇宙だからだ。だが、今、俺は、宇宙服など着けず、普段着のままカプセルの外に出ている。そうなのだ。地球は、宇宙服などむしろ必要ない。改めて、自分たちの先祖がここに居たことを、俺は身をもって感じた。
 周りを見渡すと、降下用カプセルが木々をなぎ倒していて、そこだけ、青空が広がっていた。
「これが空か……」
 自分たちが住む静止軌道が、こんな風に見えるのかと、俺は不思議な気がした。
(空気がうまい)
 俺は、深呼吸する。こんな空気に触れたことなかったなと、俺は思った。核戦争で壊滅したとは思えないほど、穏やかな場所だった。

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