十年前に引き取った甥が、この春から高校生になる。そのお祝いとして、ささやかなパーティーを催すことになった。あいにく、近くには親戚もいないので、いつもお世話になっている隣家の藤川夫妻や、会社で暇そうに見積書を眺めていた同僚の宮瀬などを招くことになった。
宅配寿司とデパートで買ったサラダ、そして、藤川さんたちが持ち寄った手作りのオードブルなどがテーブルに並ぶ。主役である甥は部活が長引いたのか、六時を回ったあたりで家に帰ってきた。
「どうする? 少し休んでからにするか?」
大人たちの酒を用意しながら、私は甥である春斗に尋ねる。
「いえ、大丈夫です。着替えてきますね」
にこりと笑い、春斗は自分の部屋へと向かう。ぴんと伸ばされたその背筋には、死んだ兄の面影があった。
年を重ねるごとに、兄に似てきている。
ふとそんな思いがよぎったが、頭を振り、浮かんだ映像を消す。今日は感傷的になるわけにはいかない。私は気を取り直し、準備に戻った。
着替えた春斗を交え、パーティーを始めると、すぐに和やかな雰囲気が溢れ始める。藤川夫妻も宮瀬も、春斗がこの家に来た初めのころからの付き合いで、私と同じように成長を見守っていた。思い出も多く、話題は尽きることがない。
「それにしても、春斗くんがあの学校に行くなんてね」
パーティーも中盤に差し掛かったころ、藤川の奥さんがふと語りだす。
「いつも熱心に勉強してたから、もっと別のところに行くのかと思っていたわ」
春斗が進学を決めたのは、家からも一番近い公立高校だった。正直に言うと、レベルは高くない。担任からも、もっと上の学校を目指すべきだと釘を刺されていたが、春斗はかたくなにそれを拒んでいた。
「あそこは友だちもたくさん行きますし、楽しそうだと思って」
誰に聞かれても、春斗はそう答えた。本当はもっと別の理由があるのだが、私に気を使っているのか、それ以外のことは言わない。
藤川の奥さんは「そうねぇ」と優しく笑うと、自分の夫に向き直り、「男の子はみんなそうなのかしら?」と話題を振った。
だんなさんは一瞬だけ、私に視線を送る。しかし、すぐに困ったように眉を下げ、テーブルの端にある銚子へと顔をそらした。
「そんなもんですよ。男は友情が一番大事なんです」