小説

『平和な時代に勇者はいらない』松みどり(『桃太郎』)

ツギクルバナー

 寝ころびながら、きびだんごを食べてテレビを見ていたら携帯電話が鳴った。
「もしもし!私、『月刊英雄通信』の足利と申します!こちら英雄桃太郎さんのお電話で宜しかったでしょうかぁ?」
「はい、桃太郎です」知らない雑誌、知らない男からの電話である。思わずゲップが出た。
「あっ!初めまして私、雑誌『月刊英雄通信』の記者をしております足利と申します!あっ!今、お時間宜しいですかぁー?」
「はい、どうぞ。ご用件は?」
「はい!私共の雑誌では毎月、過去の英雄の皆さまに巻頭インタビューをお願いしておりまして、来月号は是非桃太郎さんにお願いしたくお電話致しましたぁ!今回のインタビューアーはあの有名なミニマムアイドル親指姫ちゃんです」過去の英雄という言葉に少し引っかかりつつも桃太郎は質問した。
「ふうん。写真付き?カラー?何ページぐらい?」
「見開きカラー2ページで、もちろん写真つきですぅ!」
「ふうん……でっ、ギャラは?」
「はい!20万円をいただいておりますぅ!」
「えっ?こっちが金払うの?」
「はい!私共の雑誌のターゲットは主に企業経営者や富裕層クラスでございましてぇ、非常に広告効果が高くなっておりますぅ!」
「お断りします」
「えっ!でもインタビューアーは人気のミニマムアイドル親指姫ちゃんですよぉ」
「ちょっと前のアイドルじゃねえかよ!」桃太郎は携帯電話を床にたたきつけ、きびだんごを一袋一気食いした。再び大きくゲップをしてゴロンと寝ころんだ。
 鬼が島での戦いの後、勇者桃太郎は国民の英雄として祭り上げられた。メディアは連日桃太郎を特集した。国を挙げての凱旋パレードで毎日がお祭り騒ぎだった。鬼が島遠征でパーティーを組んだ犬は愛くるしいルックスを活かして華々しく芸能界デビューを果たした。今やCMにドラマにテレビで見ない日は無い。猿は国からの報奨金を故郷の温泉郷に寄付し、観光大使として温泉郷を盛り上げ地元の名士として幸せに暮らしている。雉も報奨金を元手に大胆な株式投資をし、田舎で晴耕雨読の悠々自適な毎日を過ごしている。

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