川で洗濯をしていたお婆さんは桃太郎の出資でクリーニング会社を設立した。その支店はまたたく間に日本全土に広がった。お婆さんは今やクリーニング業界の第一人者だ。山で芝刈りをしていたお爺さんはお婆さんの会社の役員を務め、会社の社会貢献の一環として緑化活動を行っている。何故かやる気を失った桃太郎はお爺さんとお婆さんに養われ、三食おやつ昼寝付きの毎日を送っている。そして世間はあっと言う間に桃太郎を忘れていった。
再び、きびだんごの袋に手を伸ばすと、袋がさっと後ろに遠のいた。振り返るとお爺さんとお婆さんが立っていた。
「よお!帰ってきてたの。おかえり」
お爺さんが床にたたきつけられた携帯電話を拾い、溜め息をついた。
「桃太郎、お前物を大切にしろ」
「あー、うんゴメンゴメン」
「もうお前に携帯電話は与えん。家でのテレビとネットも禁ずる」
「ちょっと何だよそれ!」
お婆さんがきびだんごの袋を持ちながら、じっと桃太郎を見据えている。
「ばあちゃん、腹減った。飯!」
「ぎゃー!いい加減にしろ桃太郎!」
お婆さんはきびだんごの袋を放り投げ、肥大化した桃太郎の腹やお尻をぎゅうぎゅうと引っ張った。
「痛え!何すんだババア!」お婆さんは鬼の形相で桃太郎を立ち上がらせた
「ああもう!重い!お前のだらしない体にだらしない精神が宿っているよ!」
お爺さんも厳しいまなざしを桃太郎にむける。
「桃太郎よ、健全な精神は健全な肉体に宿るのだ。ダイエットしろ」
「ちょっと、勇者で英雄の俺に、この扱いはひどくない!」
桃太郎は必死に抵抗して床に寝転がろうとしたが、お婆さんの腕力に敵わない。
お爺さんとお婆さんは桃太郎を無理やり引きずりクリーニング会社のワゴン車に乗せた。
クリーニング会社のロゴを見て桃太郎は悪態をついた。
「そもそも会社の資本金は俺の金じゃん。ちょっとは感謝できないのかよ、勇者の俺にさ!」
「そんな金お前の養育費とトントンだよ!」お婆さんがすぐに怒鳴り返す。
「桃太郎、平和な時代に勇者はもういらないのだよ」お爺さんが冷静に話す。
お婆さんはワゴン車を運転しながら吐き出すように言う。