小説

『カグヤちゃん』木江恭(『かぐや姫』)

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 お客さん、マスコミの人?
 あ、違うの、こりゃ失礼。いや最近はもうだいぶ減ったけど、一ヶ月前は凄かったんすよ。取材の車とかさ、こんなでっかいカメラ担いで。何でって、例のあれすよ、白骨死体、今はもうほとんど下火ですけど。テレビの人たちもね、自前の車じゃなくておれら使ってくれればいいのにね。こんな田舎だとタクシーなんてそうそう儲からないんすよ、ほら、みんな車持ってるから。
 でもマスコミの人じゃないなら、学者さんとか?時々来られるんすよ、考古学の学者さんとか大学生とか――ああ、なんかね、村の外れにちっちゃな古墳の跡があるとかで。まあ地元のおれらからすると遊び場っていうか、ただの空き地っていうか。張り切って発掘調査なんかしに来た人たちもいたけど、多分おれらの埋めたタイムカプセルとか、あとは犬の糞くらいしか出なかったんじゃないすかね。あはは。
 え、違う?本当に?いやだって、そうでもなけりゃこんな田舎にわざわざ来ないでしょ。
 え?小さい時にこの辺に?えええ、マジで。じゃあもしかして第四小?マジで?おれと一緒ですよ。うわあすごい偶然すね。
 いや、実はね、昨日も乗せたんですよ、知り合い。お客さんも第四小なら知ってるかな、歳も近そうだし――カグヤちゃんですよ、カグヤちゃん。
 知らない?あ、そっか――いやでもおれもね、こんな知ったふうな口利いてるけどあんまり覚えてないっていうね。だってもう十年以上――いやほとんど二十年近く前すからね。ただ昨日のお客さんはね、ミラー越しに顔見てて、何か見たことあるような気がするなあって思って、もしかしてと思って聞いたらドンピシャだったっていう。覚えててくれたの、なんて嬉しそうに笑った顔がほんと美人で。
 ああ、子どもの時のカグヤちゃんはまあ、美人っていうか可愛いっていうか、でも当時から目立ってましたよ。何せ東京から来た都会っ子ってだけでもう、こんな田舎じゃ大ニュースでしょ。それにカグヤちゃん、色が白くって髪もサラサラで、態度も何か大人びててちょっと近寄りがたいっていうか、おれらとは違う世界の人って感じがあって、それで誰かがカグヤ姫って呼び出したんですよ。ほら、男ってそういうミステリアスな女に弱いから、クラスの男子はみんなソワソワして、女子から白い目で見られてね。いや実はね、おれの初恋もカグヤちゃんだったんすよ。で、今の嫁はその時の同級生。はは、世の中わかんないもんですよねえ。
 でもカグヤちゃん、あんまり学校来なかったなあ。確か半袖の時期だったから夏休み前くらいに転校してきて、それからほとんど授業に来なくて、そのうち夏休みになって――二学期始まったらもういなくなってたんすよ。親戚に引き取られたって話でしたね。家庭の事情とかそんなんだったのかな。詳しくは知らないっすけどね、子どもだったし、バカだったし。
 え?昨日のお客さんの降りた場所?寺ですよ、村の。そういや例の白骨死体ね、今はそこにあるらしいですよ。

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