ヒトの吐く嘘には二種類あるとされる。黒か白か、要は悪意を含むか否かだ。だが何れにせよ嘘は嘘でしかない。嘘はどう転んでも真実には決して成り得ないのだ。嘘を吐き続けた先に一体何があるのか?
嘗て江戸の頃、その嘘を生業として良家の娘たちの名誉を護り抜く女がいた。時は移ろい今の世にも人知れずその血脈は受け継がれている。只、以前と比べ女性の奥ゆかしさや品が希薄となりつつある現代においてその役目の存在意義は見失われつつあるのかもしれない…。
「もー、男子達~!ちゃんと掃除しなさいよ!女子だけにやらせっぱなしで!!ちょっとは真面目に手伝いなさいよ!!」
授業が終わり当番の生徒だけが疎らに残る放課後の六年一組の教室に木五倍子真(キブシ マコト)の怒号が響いた。自らクラスを良くしようと率先して学級委員長を務めるほど正義感が強く真面目で勤勉な彼女にとって男子達の不真面目な掃除態度は許せないのだ。
「あーあ、またマコトが顔真っ赤かにして、ぷんすか怒ってらー。」
「真っ赤か、真っ赤か!ゴリラのお尻も、真っ赤か!」
調子に乗った男子達数人の幼稚な合唱が始まり、彼等は真に向け一斉に尻を突き出すと左右に振って見せた。それに激怒した真は持っていた箒で彼等の尻を端から順に思いっきり引っ叩いてやった。
「痛ってぇ~な。思いっきり叩きやがって!オナラ出ちゃうだろ!」
「うっさいわねー!アンタ達、本当に下品!」
「あっ出そう。出るぅ~。」
「うわぁ、臭っせーコイツ。マジで屁こいた!」
「あっははは。臭っせー。」
「もうサイテー…。」
思春期真っ只中にあるこの頃、その成熟度合いは男子と女子では明らかに大きな開きがある。まだこの時期、男子は女子よりも精神的に遥かに幼いのだ。毎度の事だが幾ら真が彼等に協力を促してもこの有様。結局、真面目な否、ある意味大人な女子達が割を食うのである。
「もう本当、男子って何時まで経ってもガキだよね。私達来年もう中学生なのに。」
「今日も真ちゃんの言う事、全然聞いてくれなかったね。いつも騒がしいしふざけ合ってるしね。」