小説

『カブオレポート』五条紀夫(『おおきなかぶ』)

「カブオ兄ちゃん、部屋から出てきて。カブオ兄ちゃんが部屋から出てこない所為で、みんなから、わたしが何て呼ばれているか知ってる? わたし、引きこもりの妹って呼ばれているのよ。可哀そうだと思わない?」

情に訴える作戦である。
けれども、カブオにしてみれば他人事であろう。父は妹に対し、お前の話ではなく、カブオのことについて言及せよと指導をした。

改めて、妹が声を掛ける。

「カブオ兄ちゃん、部屋から出てきて。カブオ兄ちゃんは、引きこもりの妹のお兄ちゃんなのよ。そして、引きこもりの父親と引きこもりの母親の息子なの」

 もはや誰が引きこもりなのか分からない。日本語は難しい。

 ここまでカブオの反応は全くない。
 父は腕を組んで唸り声をあげ、何か役立つものはないかと、自身の脳内にある経験や知識を漁った。
 その時、ふと閃いた。これに似た状況を知っている。これは、幼い頃に読んだ絵本の内容と酷似している。
 これは、つまり。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

 父の呟きに反応して、母と妹が声を揃えた。

「うんとこしょ? どっこいしょ?」

 続け様に母が言う。

「あなた、こんな時に何をふざけているのですか」

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